増え続ける不登校
医療という選択も
出雲いいじまクリニック
近年、増え続ける子どもの不登校。その背景には、心理的な悩みだけでなく、医学的な要因が潜んでいる場合があるという。島根県出雲市の「出雲いいじまクリニック」は、不登校を医学的に捉え、投薬と心理療法を組み合わせて支援する専門クリニックだ
不登校の背景は「単なる心理的問題だけではない」
出雲いいじまクリニックは、不登校や強い行き渋りを示す子どもたちの診療に特化した専門クリニックだ。総合診療医としての経験を経て心療内科の分野へと進んだ飯島院長が、診療の現場で多くの子どもと向き合ううちに「不登校は病(疾患)である」との確信に至ったことから2018年に開院。一番大きな特徴は、心理士との遊戯療法や箱庭療法を中心とした従来のアプローチに加え、医学的治療としての投薬も積極的に導入しているとのことだ。
飯島院長は「これまでの診療実績から、当院を受診した不登校児の98.5%に精神疾患が認められることが明らかになりました。うつ病や不安障害、さらに発達障害などの疾患が複雑に絡み合い、不登校という形で表面化しているケースが多くある」と分析する。もっとも、子どもへの薬物治療には根強い抵抗がある。一般の人はもちろん、診断が複雑で、副作用への懸念も大きいと医師の間でも慎重な姿勢を取る者は少なくない。島田医師は「薬は必ずごく少量から始め、慎重に反応を見ながら調整していく方法を取っています。薬を”使わない”のではなく、”少量から使う”ことで安全に治療できるという考え方です」と説明する。飯島院長も「精神科の研修では身体疾患を診る機会が限られることもあり、薬の副作用への対応に不安を感じる医師もいる。
しかし内科の視点を持てば、適切に対処できる。我々はその安心感を患者と家族に伝えることで、信頼を得ています」と続ける。また、どの薬を使うかだけでなく、「なぜ不登校に至ったのか」を丁寧に掘り下げる姿勢も重要だ。たとえばADHD(注意欠如・多動症)の特性を持ち、ゲームに没頭して夜更かしが続き、不登校になったケースでは、ADHD薬ではなく睡眠薬を微調整したことで、眠れるようになり登校できるようになった事例もあるという。島田医師は、「このケースの本質的な問題はADHDではなく”睡眠の乱れ”。心理的な悩みだけに注目しても本質は見えません。心と身体のどこが最も苦しいのかを見極めることが大切です」と強調する。飯島院長も「不登校と言えば、心理的な問題だと思われがちですが、実は違うことが多い。子どもが『なぜ学校に行けないのか』を言葉で説明できないのは、いじめなどの明確な理由があれば言えるはずですが、それがないから困っている。『悩みを話してごらん』というアプローチだけでは解決しないことも多いのです。カウンセリングに耐えられないほど具合が悪い子どももいるし、発達障害があると二次障害としてうつ病や不安障害を発症していることも多い。まずは薬でそれをちゃんと治療してから、心理療法を始めるべきです」と訴える。
総合診療の視点から導く「子どもごとの最適解」
飯島院長と島田医師はいずれも総合診療科出身。幅広い分野を横断して学んだ経験が、独自の診療スタイルを形作っている。島田医師は「総合診療では、原因がはっきりしない症状にどう対処するかを学びます。私たちが目指すのは”病気を治す”ことだけではなく、”問題を解決する”こと。全員が完全に不登校を脱するわけではありませんが、週に一度でも通えるようになる、通信制に通えるようになるといった形で、それぞれのゴールを見つけていくことが大切ではないでしょうか。そのためには、病気の解決、心理的問題の解決、学校との連携など、複数の側面からアプローチする必要があります」と語り、飯島院長も「子どものベストパフォーマンスを引き出し、その子に合った環境を見つけていくことが最も重要です」と語る。
同院のもう一つの特徴は、漢方など多面的な治療を取り入れている点だ。飯島院長は漢方にも精通し、その柔軟な発想に島田医師も影響を受けた。島田医師は「飯島院長が強迫性障害の患者を漢方だけで改善させる診療を見たとき、常識が覆されました。精神科は科学的根拠が少ない部分もあり、特に子どもでは試行錯誤が欠かせません。病態に応じて仮説を立て、薬を選び、結果を評価する。その積み重ねが我々の使命だと考えています」と語る。
自身も娘の不登校を経験したという飯島院長は「そこから学んだことは、家族全員が『これは病気なんだ』と受け入れることの重要性でした。不登校は『甘え』でも『親の育て方の失敗』でもない」と言い切る。さらに「不登校になるお子さん方の真実を知ってほしい」と、情報発信にも注力する。現在これらのことを啓蒙するための書籍も執筆中だ。飯島院長は「子どもにも精神疾患があるという事実を知ってほしい。治療されないまま大人になり、引きこもりや(親が80代、子が50代を迎えたまま孤立する)”8050問題”につながるケースもある。だからこそ現実を正しく理解してほしい」と訴える。
今後、同じ志を持つ医師を増やすことも目標だ。「不登校が増えているのに、診てもらえる場所はまだ少ないですから。仲間を増やしていき、一人でも多くの子どもと家族を支えられる体制を整えたい」と前を見据える。
出雲いいじまクリニック
飯島慶郎×島田直英
いずれも島根医科大学医学部医学科卒業。総合診療科から心療内科の分野へと進んだ飯島 慶郎院長が2018年1月に開院。島田 直英医師は、学生時代より飯島医師の下で修行を積んだ友人。
https://sites.google.com/view/izumo-iijima-clinic