脳をターゲットに
独自の“健幸”作り

医療法人社団健人会横倉クリニック

医療法人社団健人会横倉クリニックの横倉恒雄院長は、病気を対象とした従来の健康づくりではなく、病気も「健幸」の一部として捉え、「疲弊脳」「健幸脳」という「脳」をターゲットにした新しい概念で健康外来サロンを運営する。「健康」ではなく「健幸」という独自の概念を提唱する横倉院長に聞いた。

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体験元に新たな健康概念を提唱

横倉院長は1990年、42歳のときに勤務していた東京都済生会中央病院で日本初の健康外来を設立した。そのきっかけは、自身の肥満と高脂血症だったという。「もともと脳下垂体内分泌学を研究していたことから、脳を健康にすれば体も健康になるのでは、と考えたところが始まりでした。脳は常に恒常性を保とうとするから、そこをうまく利用すればいい。脳をターゲットにした食事療法を始めました」という。

横倉院長が取り組んだのは「おなかがすいたら好きなものを好きなだけ、おいしく楽しく心ゆくまで食べること。絶対に制限をしない」というものだ。「脳がストレスを受けるから病気になる。だったら、脳にストレスを与えなければいい。脳が健康になると知らないうちに食べる量が減るんですよ。ストレスを解消しようと思って、脳は食べようとするし、食べることがリラックスにつながるので、それを制限するとますますストレスになるわけです」と説明する。

その後、自身の体験をもとにエビデンスをそろえ、「疲弊脳」と「健幸脳」という概念で健康づくりに臨む「未知なる健康科学」を学会に発表した。情報過多や人間関係などが多い現代社会では、五感が働かずにストレスを必要以上に感じてしまい病気になる「疲弊脳」が多く、一方で五感をフルに使える脳に余裕がある人は「健幸脳」で、ストレスを受けてもダメージが少なく、充実した生活を送れるという考え方を提唱している。その考え方を元に健康外来を設立した当初は反発も大きかったという。「当時、賛同してくれたのは健康外来を開設した病院の院長と聖路加国際病院の日野原重明院長の二人だけでした。日野原院長からの言葉はとても自信になりました。その一言だけでここまで続けてこられたと思っています」と明かす。

独自の医療方針を貫きたいと50歳のとき、医療法人社団健人会横倉クリニックを開院した。「日本国民を本当の“健幸”にしたい」という理念を待合室や診療スペースといった院内の空間づくりにも反映させている。「患者同士の視線が合わず、受付での会話も聞かれないように、いすの高さや受付の場所などすべて計算して設計しました。ドアを開けた瞬間から帰るまで、すべてが心地いい、知らないうちに健康になっている。そんな空間になっています」と笑顔を見せる。

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今を満足して生きることが本当の健康

横倉院長の考える健康とは、「ごく当たり前に生まれ、成長して。ごく当たり前に病気をしたり、けがをしたり。そして、ごく当たり前に老いていき、死ぬこと」だという。

 「昔、読んだ本の最後の一行に『健やかに生き、健やかに死ぬことが健康』だと書いてあったんです。それが、心に刺さって本当の健康について考えるようになったのが原点です。他の健康概念は西洋学的なアプローチから病気を治し、病気を予防することが健康づくりの定義で、病気がターゲットになっている。私の考えは、病気も含めてごく当たり前
を受け入れて、毎日いきいきと充実した生活を送れるようになることが“健幸”だと思っています」と語る。

「健幸外来サロン」プログラムお茶会のお茶で使用するふくさを使う練習の場面
「健幸外来サロン」プログラムお茶会のお茶で使用するふくさを使う練習の場面

だが、横倉院長は現在ステージ4のがんを患っている身でもある。「『明日がよくなるように頑張りましょう』といいますが、それではだめ。それだと明日また不安になってしまう。今を受け入れることが重要で、今に満足して、明日死んでもいいように生きるのが“健幸”の極意だと思います」と力を込める。

 静岡・伊豆高原のファスティング(断食)道場と提携してリトリートを行うなど、医療以外でも、“健幸”をキーワードに積極的に活動する。さらに、自身の考え方や感性に共鳴する人を残したいと、100年先の子供たちの”健幸”・幸福・生き方の美学の実現を目指した「健幸美来塾」を主宰。「ステージ4のがんで、後期高齢者という年齢で、この世に残したいものはないけれど、100年先の未来を見据えて、自分の生き方や感性を伝える人が残ってくれたらいいと思います。」と自身の感性に共鳴し、さまざまな可能性を持つ人材が羽ばたくことを願っている。

医療法人社団健人会横倉クリニック院長

横倉恒雄

1947年、東京都出身。慶応学医学部産婦人科に入局後、脳下垂体内分泌学を研究し、東京都済生会中央病院で実地臨床に携わる。1990年に日本初の健康外来を東京都済生会中央病院に創設。1998年に、医療法人社団健人会横倉クリニックと健康外来サロン(2008年に健幸外来サロンに改名)を開設。メディアへの出演も多数。

http://www.yokokura-clinic.com/medical.html