へき地医療の現場で
予防医療を発信

医療法人社団並木会 渡邉医院

「へき地医療」に携わる元陸上自衛隊の医官で、米軍特殊部隊での前線医療訓練も経験した渡邉覚文医師。2008年に北海道・えりも町の診療所に赴任し、現在は安平町で「医療法人社団並木会 渡邉医院」を開業している。へき地医療の経験から、渡邉医師が感じた予防医療の重要性について聞いた。

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「社会貢献したい」と北海道で開業

渡邉医師は2008年、「防衛医科大学校出身で、学費がかからずに医師免許を取得することができたため、何か恩返しがしたい、社会貢献したい」と、北海道・えりも町国民健康保険診療で医師募集に応じ、赴任した。そして2015年、安平町の診療所を引き継ぎ、開業した。医療の継続性を重視し、50年先を見据えて設備も充実させ、地域の人にとって良い医療を提供できるよう2023年4月に医院を建て替えた。

「えりも町での経験から、脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患を発症すると、寝たきりになってしまう可能性が高いことや、大腿骨骨折や胸腰椎圧迫骨折を起こすと、ADLを落としてしまい日常生活に支障を来すことが分かっていました」と振り返り、正確な診断、初期治療が命を守るために重要だと語る。また、「えりも町は周囲に病院がなく、脳出血や脳梗塞、心筋梗塞の患者さんを120キロ離れた帯広まで転送する必要がありました」と言い、そういった状況を未然に防ぐためにも予防医療の重要性を痛感したという。

またコンブ漁が盛んなえりも町では、石の上を歩いて作業することからひざを痛めた人が多く、「ひざを回す体操を考案して、1日に何回行うと骨がすり減らないか、痛みが軽減されるかなど、半年ごとにレントゲンを撮り、患者さんと共に科学的根拠を持って取り組んできました」という。「田舎では何か起こるとフィードバックがあるため、アプローチを変えたり、改善のきっかけになる。日々体を動かすことも予防につながっていくので、診断から生活指導、その後のフォローまで行っています」と常に患者に寄り添っている。

他にも、まひがあってもできるリハビリを考案した。「複雑なリハビリだとリハビリテーションに行かないとできないので、家でも安全にできる『立ち座り体操』を提案しました。手を使って立ち上がると脚を使い、脚が弱らなければ寝たきりにならない。まひがあって運動を避けると、健康な部分も弱ってしまい機能を維持できなくなってしまう」とそれぞれに合った方法をアドバイスする。さらに、モチベーションを維持してもらうため、「来院した際に脚を触って筋肉の状態からちゃんとやっているかを確認し、カルテに立ち座り体操指導、もしくは継続などと評価しながら働きかけも行っています」と語る。

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同じ志を持って働く仲間を

現在の日本は人口減少、少子高齢化が進み、今後もそのペースは加速するといわれている。「日々医学は進歩しているので、医師の腕次第ともいえますが、寝たきりにならないことを追求していけば元気な高齢者が増えていく」と今後に期待を込める。昨今、骨粗しょう症の患者も多く、「女性は閉経後、多くの方に骨粗しょう症の症状が出るため、薬の力を借りて骨密度を維持し、骨折を防ぐ。閉経と共に治療を始めると効果的です。骨折してからではなく、しないように先回りする。それこそが医師の役目だと思っています」と指摘する。

15年にわたりへき地医療で患者に寄り添ってきた渡邉医師は「へき地医療と聞くと、過酷な現場を想像するかもしれませんが、一人ではなく組織で行うことで何かあったら相談し、連携することができるため、医療従事者の負担も軽減されます」と語る。現在はチームでできる体制を構築し、仲間が分院を開院し、技術やノウハウのみならず人を育てる医療を広めている。「独り善がりになってしまってはいけないので、製薬会社の情報から薬について学んだり、講演会に行って新たな情報を吸収したりと常にアップデートするようにしています」と日々学び続けている。

また「数年間、赤ちゃんからお年寄りまで総合的に診ることは、医師として良い経験、財産になると確信し、同じ志を持って働く仲間を募集しています。見学に来てくれるだけでも、まず知ってもらい興味を持ってもらうためにも、へき地医療について広めていきたい」と熱く語る。

社会に貢献したいという思いから、へき地医療に携わった渡邉医師。分院を開くこともでき、着実にその思いは広がっている。

医療法人社団並木会 渡邉医院院長

渡邉 覚文

1969年、埼玉県生まれ。防衛医科大学校を卒業後、12年間陸上自衛隊の医官として勤務。1年間米軍での前線医療も経験。退官後、千葉・新東京病院の外科でがんの手術・治療に携わる。「へき地医療」に携わりたいという夢を叶えるため、2008年えりも町国民健康保険診療に赴任。2015年に現在の診療所を引き継ぐ形で開業。

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