がん患者を救うため
福岡から全国へ

鶴田クリニック

福岡市にある鶴田クリニックは、日本で初めて在宅で専門的な抗がん剤治療を行う訪問診療に特化したクリニックだ。がん薬物療法専門医として「がん診療に関わる全ての方を幸せにしたい」と挑戦を続ける鶴田展大院長に、がん治療の今とこれからを聞く。

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増え続けるがん治療難民を救いたい

国立がんセンターの統計によると、新たにがん患者となるのは毎年約100万人。男性の3人に2人ががんに罹患すると言われる。だが、昨今の抗がん剤治療の進歩に伴いがんで亡くなる患者の割合は減少傾向にある。鶴田院長は「昔は手術で治せない患者さんは治らないと言われていたが、今は抗がん剤をすることで、がんが小さくなり手術ができる様になる患者さんや、ほぼ副作用のない抗がん剤治療のみで長生きしている患者さんも増えてきました」と説明する。

そういった中で、免疫療法や分子標的薬などが注目され、「昔の抗がん剤は、比較的多くの患者さんに効くがどこかで必ず効かなくなるという薬が多かったですが、新しい免疫療法や分子標的薬の薬は個人差があるものの効く人には本当によく効く人が増えてきている」と治療の傾向が変化していることを語る。

また、「がん患者さんは製薬企業や国などの間で翻弄されています。例えば胃がんでのオプジーボ単剤療法での奏効率は11%程度であり、9割の人には効かない。元々オプジーボは1人当たり年間3500万円の高額な薬剤でした。そのため新しい抗がん剤を売りたい製薬企業と、財政出費を減らすために、どの人に効いてどの人に効かないかのバイオマーカーを探してほしい国の温度差もありました。その結果、海外で承認されている10人に1人効くかもしれない新薬があったとしても国が承認しづらいという事が生じています」と語る。

鶴田院長は、「クリニックを開業する前は腫瘍内科医・がん薬物療法専門医として福岡市内で複数のがん拠点で治療に向き合ってきましたが、患者数の増加から来院での治療が1日がかり、といった患者さんも珍しくありませんでした。身体的・社会的な事情で入院や通院が困難な患者さんが治療をあきらめていらっしゃるのを目の当たりにし、在宅であっても大きな病院で行う治療と同水準の抗がん剤治療を提供したい、と考え開業を思い立ちました」と振り返る。

また、「ちゃんとしたがん治療ができる先生がすべてのがん患者さんを診る事ができない結果、効果のない高額な怪しい民間療法や免疫療法に患者さんが流れていることも問題と考えます。また、そういった事を行っているクリニックの医師の多くが経歴不詳やがん治療に関わる専門医や研修経験すら持っていない」と問題提起する。

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がん薬物療法専門医だからこそできる新たな取り組み

同クリニックでは、薬局・薬剤師と連携し抗がん剤を自宅に届け、自宅で投与を行ってもらう仕組みを構築している。基本的には薬代も含めて、保険診療で対応しているそうだが、それは鶴田院長が診療科目を超えて抗がん剤を処方できるがん薬物療法専門医であるからこそ可能だという。がん薬物療法医は、がんに対する薬物療法の高度な知識や技量、経験があると認められた医師で、先端的な臨床開発研究においても詳細な説明責任が果たせ、完遂できることが特徴だ。

鶴田院長は「ただ腫瘍内科って、人気ないんですよね」と苦笑する。「テレビドラマで見るような『人生の強烈な瞬間』を日々経験するので、しんどいです。例えば、妊婦さんががんになった時に、本人、家族へどう説明するのか。赤ちゃんの管理を小児科などと連携できるか。といったコミュニケーション能力や他職種連携など複数のスキルが求められます。また、手術をしたら8割は助かるかもしれないという話をした患者さんが、残念ながら2割の状況になってしまった時に『手術しなければよかった』と言われることもあります。命に関わる領域だからこそ、常に勉強が必要で疲弊して途中でやめるドクターも少なくありません」と明かす。

将来的には、日本中に高度ながん治療拠点を作りたいと意気込む鶴田院長だが、福岡市にクリニックを開設したことはその第一歩で、“がん治療難民”の患者に対して四つの柱を掲げている。一つ目が、通院困難患者へ保険診療での標準治療の提供、次にがんゲノムプロファイリング検査の実施、そして、海外でフェーズ2以上のエビデンスのある国内未承認薬の投与、最後に希少がんへの取り組みだ。鶴田院長は「実際の患者数も1000人が見えてきており地域や社会のニーズをすごく感じています。この福岡から新しい取り組みを日本中に拡げていきたい」と力を込める。

鶴田クリニック院長、がん薬物療法専門医

鶴田展大

久留米大学医学部卒業後、国立病院機構九州医療センターで初期研修終了。九州大学の腫瘍内科に入局しがん治療や研究に従事。複数のがん診療拠点病院で勤務した後に、医療系企業に勤務しながら、複数のゲノムベンチャーや行政、がん患者に関わる活動やコンサルティングに従事。2023年7月、鶴田クリニックを開院。

https://www.tsuruta-cl.com