日帰り腹腔鏡手術が
当たり前の世の中へ

東京外科クリニック

医療法人社団博施会が運営する東京外科クリニックは、腹部外科で患者の多い虫垂炎、胆石症、鼠径(そけい)ヘルニア(脱腸)の日帰り手術専門のクリニックだ。日帰り手術の累積症例数は4000例以上の実績を誇る。大橋直樹院長は、入院を必要としない腹腔鏡日帰り手術が当たり前の世の中に、とその正しい普及に尽力する。

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安全で快適な日帰り手術を

大橋院長が東京外科クリニックを設立したのは2015年のことだ。当時、大橋院長は消化器外科の医師として、あらゆる手術に挑戦していたが、その中で腹腔鏡による鼠径ヘルニアの修復術に出会い、それが自身のライフワークになっていった。だが、当時の日帰り手術といえば白内障などの眼科や下肢静脈瘤(りゅう)が主流であり、体幹の重要臓器に触れる手術、それも専用の全身麻酔が必要とされる腹腔鏡手術の分野での日帰り手術はほとんど行われていなかった。

 「鼠径ヘルニアであれば大きなキズを伴う切開法でしか治療ができず、不完全な麻酔でもがき苦しみながら手術を受けている患者さんもいて、そういった腹部外科手術と日帰りの組み合わせの未熟さも実感していました。腹腔鏡はキズも小さく、術後も快適なはずなのに入院で行わなくてはいけないという矛盾。これらを一挙に解決できる方法は全く新しい手術センターを作ることと決断しました。既存の仕組みや術式を重視する方々から非難されることもありましたが、5年の忍従ののち、多数の症例をもって実績を証明する論文を上梓。外科の学会誌優秀論文賞をいただくことで、安全性と合理性を科学的に証明できたのです」と振り返る。

技術が安定していれば日帰り手術も安全かつ快適に提供できると確信したからこそ開院できたという大橋院長は、麻酔科医と手術看護認定看護師、三位一体で研鑽(さん)を続ける。「昨今同じように日帰り手術を行うクリニックも増えてきましたが、当院では手術の経験値に自信を持っています。日帰り手術はクオリティーコントロールが重要になってきますから、麻酔医とも議論に議論を重ね、薬や医療材料も厳選して、安全に行える日帰り手術用のプロトコールを作り、患者によって違う術後の経過に関しても安定した医療が提供できるよう努めています」と胸を張る。

開院から日帰り手術の累積症例数は4000例以上に上る。困難症例も進んで手がけているのが特徴だ。「患者さんにとって、当院が最後の砦(とりで)。手術が難しいからといって断ることはありません。経営効率を考えれば簡単な手術ばかりを手がけた方がいいですが、簡単な問題しか解いていないと、それしか解けない体質になってしまうと考えています。工夫が必要な難しい問題であっても、多種多様なものに挑戦した方がスキルも上がり、裾野が広がる。高い実力を維持するのは、困っている患者さんのためでもありますが、自分のためでもあるように思います。それが、パイオニアとしての矜持だと心得ています」と力を込める。

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日帰り手術をインバウンドに

腹部外科における日帰り手術のエキスパートとして、大橋院長は日帰り手術の普及は患者の時間や医療費の削減だけでなく、医療者側にも大きなメリットにつながるという。「日帰りできるものを入院させるとなれば、その分の人件費、特に外科医の負担も大きい。病床に関するコストが削減されれば、国の医療費も節約でき、資源をより深刻な疾患に充当できる。医療も経済を活性化させる重要な鍵の一つとなればいいと思います」と語る。

人口が減っていく中で、大橋院長は海外にも目を向ける。「日本において医療はインフラですが、海外から見たら非常に質の高い商品。いわゆるメディカルツーリズムで、海外の患者さんが増えてきていますし、世界の患者を救うことはもちろんのこと、それは国益にもつながるはず。日本の医療を世界戦略に使う、というのは経済的にも有効なのではないでしょうか」と言い、メディカルツーリズムを手がける企業と5年先、10年先を見越したプロジェクトを進行中だ。

今後“選ばれるクリニック”としてさらに重要な意味を持つであろう同院の日帰り手術プロトコールだが、大橋院長は「中長期的には、こういった腹部外科の手術は日帰りが当たり前、という感覚を国民全員に持ってもらいたい」と声を上げる。

「普及を急ぎたい気持ちもありますが、その一方で、劣化版コピーのようなクリニックが乱立し、重大合併症を繰り返している事例もある」として、正しい普及のために有志と「日本日帰り手術推進機構」を創設した。「優良日帰り手術専門施設の認定業務や各種研修を担ってクオリティーコントロール(品質管理)を進めていきたい」と意欲を燃やす。
 

東京外科クリニック院長

大橋直樹

東京都出身。日本医科大学を卒業後、慶応義塾大学医学部慶応義塾大学医学部外科学教室助教として同大付属病院の肝胆膵・移植班に所属し、生体肝移植などの高度医療に従事。その後、民間の医療機関で腹腔鏡による手術を積極的に取り組む。特に、鼠径ヘルニア(いわゆる脱腸)にも腹腔鏡手術をいち早く取り入れ、切開法主流の時代を変えることに尽力。2015年より現職。

http://www.tokyogeka.com/