ものづくり×福祉で
新たな可能性を発見
TOIROART株式会社
大分県の伝統工芸品である別府竹細工と福祉を絡め、障がい者の雇用を創出するTOIROART株式会社。阿部聖子氏は「障がいと表現される特性を強みに変え、それぞれの個性を伸ばす支援を続けたい」と力強く意気込む。
伝統工芸×福祉で未来を切り拓く
伝統工芸品・別府竹細工によるワインボトルラッピングなどを製作・販売するTOIROARTは、大分県に拠点を構えるものづくり企業である。阿部氏の出身地でもあるこの地で、古くから受け継がれてきた竹細工の技術を現代的な商品へと昇華させている。元々阿部氏は、福祉事業を手がける別会社を経営していたが、その中で展開していたネット販売のノウハウを生かし、「自社開発の商品をつくりたい」という思いが、竹細工との出会いにつながったという。「伝統工芸は日本の文化そのもの。長年受け継がれてきた価値を次の世代へ伝えたいという気持ちが強くありました」と振り返る。
地元の伝統工芸を改めて見つめたとき、真っ先に浮かんだのが別府竹細工だったという。職人の下で基礎から工程を学び、製品として成立するものを模索するなかで誕生したのが、ワインボトル用のラッピングだ。「実家がトマト農家ということもあり、いつかトマトワインを作ってみたいという夢がありました。ただ、ワインづくりはハードルが高く、実現には至らなかった。でも、その過程でワインに対するこだわりや背景の深さに気づきました。それならば、プレゼントするときのラッピングも、こだわり抜いたものであるべきだと。そこで着目したのが、竹細工でした」と語る。

ワインを飲んだ後もボトルを記念として残す人も少なくない。そのボトルに添えられた竹細工のラッピングも、思い出の一部として残せる。また、後に花瓶カバーなどインテリアとして再利用することもできるという。紅白が縁起物の日本文化にあわせ赤と白、それぞれのワインに対応したカラーリングも施し、伝統的な美意識とモダンなデザインの融合を意識している。「竹細工は本来、ナチュラルな風合いですが、そこに着色を加えたり、意匠を工夫したりすることで、デザインとしての完成度を高めています」と胸を張る。
同社のもう一つの大きな特徴は、この竹細工の製作を障がい者福祉と結びつけている点にある。就労継続支援の枠組みを活用し、障がい者に製作を依頼しているのだ。「障がいと表現されるその特性こそが、実は強みに変えられる。一人一人の個性を生かし、社会の一員として活躍できる場を用意したい。それが当社の理念です」と力を込める。
特性を強みに変える福祉をものづくりで実現
阿部氏が同社を立ち上げたのは2019年のこと。別会社で展開していたネット販売用に仕入れた商品のクリーニング作業を、地元の障がい者施設に委託していたことで、「その取り組みが地域の役に立ち、雇用創出にもつながるのであれば」と、故郷での創業を決意したという。「商品を売るだけでなく、社会に価値を生み出せるのではないか。障がいのある方にも参加の機会を提供できるのではないか。そう考えたとき、自分がやるべき事業の意義がはっきりと見えてきました」と語る。
また、変化する社会の中で、福祉のあり方も進化が求められている。「近年、AIの登場などにより、障がいの有無にかかわらず、さまざまな人の業務に変化が生まれつつあります。しかし、ものづくりの現場では、手作業や繰り返しの工程が今後も必要とされるはず。だからこそ、私たちはそこに新たな雇用の可能性を見い出しています」と話し、新たなプロジェクトとして農業と連携した商品開発も進行中だ。

「一般的に農業とのコラボというと、農作物から加工食品を作ることを想像されるかもしれませんが、当社が着目しているのは『発酵菌』です。発酵菌を使った加工品づくりは、保存料などを使わずに自然の力で保存食を作れるうえ、作業自体が完全なルーティン。一度覚えれば、着実に成果を出せる仕事ですから。障がいを持つ方の特性に合った、新しい働き方のかたちだと考えています」と、その可能性を示す。
伝統工芸を通じて日本の美意識を伝えると同時に、障がい者の雇用創出にも挑む阿部氏は「すべては人ありきの事業だ」と語る。「その人自身が障がいなのではありません。社会に出たとき、その特性に合った受け皿がないから、障がいと見なされてしまうだけ。個性や特性が活かされる場所があれば、自信を取り戻し、能力を発揮できる。企業の成長のために障がい者を雇用する時代が来れば、それはとても素敵な未来だと思います。いろいろな人がいるからこそ、社会は豊かになる」と力強く語る。阿部氏は、伝統工芸×福祉という独自のスタイルで、これからも社会に新しい価値を生み出し続ける。