日帰り白内障手術の
エキスパート
医療法人社団誠雪会/等々力眼科
手術で、視力の回復が見込まれる白内障。欧米では日帰り手術が一般的だが、日本では入院が必要になることが多いが、等々力眼科の禰津(ねづ)直久院長は、1日約20件、年間約900件の日帰り手術を行っているエキスパートだ。「現状維持は退化の始まり。一歩でも進化し続けたい」と語る禰津院長に聞いた。
“手術の神様”との出会い
禰津院長は、1993年の就任以来、累計1万7000件以上の白内障の日帰り手術を手がけてきた。就任当初から白内障の手術は日帰りのみで、その原点となったのは医学部卒業後、研修先として選んだ「天理よろず相談所病院」で、“眼科手術の神様”と呼ばれていた故永田誠医師との出会いだった。同院のシニアレジデントとして白内障手術に関わったが、「永田先生の手術に関するフィロソフィーの中に、誰がやっても同じようにできる術式という考えがあり、それに裏打ちされた洗練された術式だったので、研修を始めてから11日目で、通常は半年から1年かかる白内障手術ができました。手術翌日にガーゼを外したとたん劇的に見えるようになって、患者に喜んでもらえるのがうれしくて、眼科医になって白内障手術を極めようと決意しました」と振り返る。
永田医師の下で4年半、母校で7年間経験を積み、母の跡を継ぎ2代目として等々力眼科の院長に就任すると、禰津院長は日帰り白内障手術を中心としたクリニックへと生まれ変わらせた。「経済的な負担が少なくなるのはもちろん、手術を受けた日に帰宅できる。高齢者は、入院して環境が変わるだけで、認知症などが悪化することもあり、普段と変わらない日常生活が送れることは大きなメリットだと思う」と語る。
禰津院長は難しい症例や併発症が起きたとき以外は、「術式の進歩で、通常の症例では、駆け出しの医師でも熟練者でも、手術から半年もたてば、大差なくなる」というが、挿入する眼内レンズの度数は患者の術後の生活の快適さを左右するため、患者の生活プロフィールを把握し、生活しやすいピントの距離などをいくつか提案し、選択された目標に正確に合わせるための事前準備が一番大事だという。そのため、通常1回しか行われない眼内レンズの度数を計算するための検査を最低3回行い、独自の基準に達しなければ、さらに検査を追加することも多い。さらに人口知能(AI)を含め7種類の計算式を用いて、より度数の精度を上げているという。禰津院長は「患者の術後の生活に関わってくるので、誤差をできるだけ減らしたいと思い、手間のかかる方法を取っています」と胸を張る。さらに、眼科全体として技術の底上げにつなげるため、他の大学の医師らと、若手医師向けに学会のインストラクションコースで計算式を指導してきた。
最新技術の導入に意欲
日帰り白内障手術のエキスパートの禰津院長だが、「現状維持は退化の始まり。常に進化して前に進んでいきたい。進歩という意味では、自分はまだ全然足りないと思っています。他の人を見るともっと頑張らなくては、まだまだだと感じることも多々あります」と自嘲する。2000年から新型コロナウイルスの感染拡大で中断するまで、毎年米国の白内障手術の学会に参加してきた。「米国の方が日本より3~4年先の技術を扱っており、学会に参加することで日本の数年先の方向が分かり、今後どのような技術を取り入れていくべきかの指針になる」という。そうして乱視の眼内レンズや多焦点眼内レンズ、レーザー白内障手術など新技術の導入にも前向きに取り組んできた。
禰津院長は「新しい技術の導入には安全が第一。永田先生の教えに従って、少数例で始めて、ゆっくり経験を増やしていくようにしています」と語る。「患者のために、これからも新しい技術の導入は必要」として、2023年には再び米国の学会に参加し、新しい知見を取り入れようと意気込んでいる。
医療法人社団誠雪会/等々力眼科理事長
禰津直久
1955年、東京都出身。1980年、日本医科大学卒業後、天理よろず相談所病院で内科系ジュニアレジデント、眼科シニアレジデント。医局長、講師を経て、1993年、等々力眼科の2代目院長に就任。
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