【大学特集】
「自省利他」の行動哲学で
社会課題解決に貢献
龍谷大学
1639年に西本願寺境内に開設した教育施設「学寮」を起源とし、380年以上の歴史を刻む龍谷大学。入澤 崇学長は「自省利他」という行動哲学を掲げ、「社会課題解決に貢献する人間の育成を目指す」と語る。
志が高い人間の育成を目指す
現代社会は想定外の出来事が次々と起こり、本当に深刻な課題に直面しています。その中で龍谷大学の大きな強みは、構成員の社会課題の解決に向けた強い意志と行動力にあると言えるでしょう。仏教系の大学として、慈悲の心が根底にあります。そのため、困難を抱える人々や地域、組織に対して手を差し伸べ、共に困難を乗り越える姿勢を持っています。
1639年に西本願寺の僧侶養成機関として始まり、今年で創立385周年を迎えます。これまで浄土真宗の精神に基づいた教育・研究を行ってきました。創立380年を迎えた2019年には、「自省利他」という行動哲学を掲げました。本来、自己の人生について考え、より良い未来を築くために根本的な問いに向き合うことが重要です。本学では、入学直後の1年生全員に仏教の思想という科目を導入し、その科目を通じて学生が自己探求に取り組む機会を提供しています。
常に新たな挑戦に取り組んでおり、最近では、JR京都駅前の市有地の公募に手を挙げました。大阪ガス都市開発株式会社と京都信用金庫の3者で「共創HUB京都コンソーシアム」を組織し、京都駅前のイノベーションハブ拠点を整備する計画です。2027年度中の事業運営開始を目指し、3者が有するリソースやネットワークを駆使して、京都発の社会課題解決につながる産業創出やコミュニティー形成、人間育成などを推進します。拠点内にはスタートアップ支援に特化した京都信用金庫の支店や、多様な学生や社会人などの交流を促す龍谷大学サテライトキャンパス、交流型の学生寮や賃貸マンションなどさまざまな機能を備える予定です。
大学は、社会への門戸をさらに広げ、変革を進める必要があると考えています。社会課題の解決を実現するために、志が高い人間を育成することを目指し、人権や環境などの問題にも特に注力しています。また、京都市立芸術大学との隣接からアートを重要な柱と位置づけ、若者たちが集い、課題解決に向けて前進していく場を提供していきたいと考えています。
学びの本質は「勉強から学問への変化」
学生時代は、本を読んだり映画を見たりして異世界の話に触れることが大好きでした。20代後半に一人旅でインドを訪れたことで、アジアの魅力に気づきました。専門は仏教学だったのですが、教員になってすぐ、アジア各地の遺跡を研究対象にするためにパキスタンやアフガニスタンにも足を運びました。アジア各地を訪れながら、自らの研究に没頭すると同時に、地域の人々との交流も楽しみました。
アフガニスタンを訪れた際、印象的だったのは、地雷によって片足を失った少年たちが多くいたことです。しかし、彼らは片足を失っていても、サッカーボールを蹴っている姿を見て驚きました。彼らはサッカー選手になりたいと願っているのです。戦争の犠牲になった人々が多い中でも、彼らの希望を失わずに生きている姿に感銘を受けました。この経験は、貧しい地域においても向学心を持つ人々がいることを知らせると同時に、日本の教育について考え直す機会になりました。
大学における学びの本質は、勉強から学問への変化にあります。勉強は、小学生の頃から強要されることで、やりたくないという気持ちを抱くことが一般的かもしれません。しかし、大学とは単なる勉強の場ではなく、学問を追求し、自ら問いを探求する場なのです。大学に入る前は、外部からの問いに対して正解を求めることが主でしたが、社会に出てからは正解が明確な場面は少なく、むしろ複雑な問題がいくつも絡まっているのが実情です。正解が一つであることはまれであり、多角的な視点から問題に取り組むことが必要です。そのため、大学でその能力を身に付けることが重要です。
「自省利他」という言葉は、今後入学する学生にも伝えていきたいと考えています。人々は自らの考えを正しいと信じがちですが、現代においてはその考え方を見直し、自問することが最も重要だと考えています。
龍谷大学学長
入澤 崇
1955年生まれ。龍谷大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。その後、90年龍谷大学文学部講師、助教授、経営学部教授、龍谷ミュージアム館長、文学部長を経て、2017年から現職
https://www.ryukoku.ac.jp/