サラブレットを運ぶ
長距離輸送の真価

大江運送株式会社

北海道から本州まで競走馬の長距離輸送を展開する大江運送株式会社。白川典人代表は、輸送業の中でもニッチな競走馬輸送という業種をもっと多くの人に知ってもらい、人材不足解消につなげたいと、SNSなどでの情報発信にも力を入れている。

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ワンクッション輸送で輸送品質を向上

競走馬の年間生産頭数は約8000頭で、その9割以上が北海道の日高地方と胆振(いぶり)地方で生産されている。そこから関東・関西のトレーニングセンターやその近郊の牧場など、本州へと競走馬を輸送するのが同社の主軸事業だ。白川代表の父が立ち上げ、白川代表は2004年に入社し、ドライバー職からスタートした。「1年半ほどはドライバーとして働きながら、帰宅後には会社の資料を読み、業務改善の方法を模索する日々でした」と振り返る。

競走馬輸送は、運送業の中でも極めて特殊な分野である。馬の個体差により、臆病な性格の馬もいれば、突如として興奮し暴れる馬もいる。「輸送中の事故を防ぐためには、馬に負担をかけない運転技術が必要です。しかし、最も大切なのは馬の状態を正確に把握すること。発熱や腹痛の兆候をいち早く察知し、出発地から預かったときと同じ状態で届けることに全力を注いでいます」と白川代表は語る。

現在、同社は輸送品質の高さで業界内でも一目置かれる存在だが、過去には苦境も経験した。輸送中に「X腸炎」と呼ばれる原因不明の症状で競走馬の命を失う不運に見舞われたのだ。業界内で同様の事例はあったが、最初に発生したのが同社であったため、風評被害を受け、経営は悪化した。

そんな中、白川代表は、北海道から本州への輸送の際に途中の牧場を経由し、いったん馬を休めてから再び運び直すというワンクッション輸送に光明を見出した。「ちょうど東日本大震災のころでしたが、輸送時間が20時間を超えると、馬が発熱する可能性がぐっと上がるという研究結果も出ていたこともあり、当社でも試してみようとなりました」と導入した結果、輸送時の発熱リスクが低減し、トレーニングセンターでの調教やレーススケジュールにも支障をきたすことが少なくなった。この成功を機に、同社の経営はV字回復を遂げた。

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大江運送TV@YouTubeを主軸に、
SNSを活用し、競馬を支える仕事を発信

同社は、輸送品質の向上だけでなく、ドライバーの就業環境改善にも力を入れている。白川代表は「ドライバーがいてこそ会社が成り立ちます。長距離輸送には家族の理解も必要ですし、関わるすべての人の満足度を高めることが重要です」と言い、給与面の向上はもちろん、職場環境にも細やかな配慮を払う。そして、社員には「何か気づいたことがあれば遠慮なく言ってほしい」と呼びかける。中でも、白川代表は新人の視点を重視する。「どこの業界でもそうですが、新人の目が一番お客さまに近い。ですから、新入社員にも積極的に指摘してほしいと伝えています」と語る。実際に、そういった新人の声からトラック内部を改善した。「細かいところですが、馬と同じスペースにスコップやロープなどの道具をそのまま積んでいた。乱雑さが目に着きますし、馬と一緒だといざというときに危険なのではないかということで、物を置くスペースを別途作りました。牧場やお客様からの評判も上々で、馬にとっても快適な輸送になっていると思います」と胸を張る。

さらに、競走馬輸送という業種に関心を持ってほしいとYouTubeや各種SNSでの情報発信にも注力している。輸送に使う独特なトラックの紹介や実際に運行に帯同してドライバーの仕事風景を公開するなど、同社ならではのコンテンツは閲覧数も高く好評だ。求人への応募数も増えたという。

まずはニッチな業種である同社を知ってもらうことを目的に始めたという情報発信だが、そこには競馬業界を支えるさまざまな職業を盛り上げたい、という思いもあった。「『競馬がなくなることはない』と言われていますが、業界の課題は山積しています」という白川代表の言葉通り、経営者の高齢化による事業承継問題、競走馬の生産地である北海道日高地方の過疎化、特殊な輸送トラックを製造する業者の減少、さらに2024年問題によるドライバーの働き方改革も加わり、業界の変革が求められている。「当社のSNSがきっかけで、競走馬輸送だけでなく、競馬業界を支える仕事全般に関心を持ってもらえたらうれしいですね」。そう語る白川代表の眼差しは、未来の競馬業界の発展を見据えている。

大江運送株式会社代表取締役

白川典人

不動産業などさまざまな業界を経験し、2004年に大江運送株式会社へ入社、2006年に専務取締役に就任、2019年に代表取締役に就任。競走馬の輸送という運送業のなかでもニッチな業種に関心を持ってもらいたいと近年はYoutubeをはじめ、XなどSNSでの情報発信も積極的に行っている。

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