患者さんを中心に
立体的な診療を行う

のげ内科・脳神経内科クリニック

患者一人一人と真摯(しんし)に向き合い、最初から最後まで責任を持って診療を行う——。そんな理想を現実にしているのが、横浜市にあるのげ内科・脳神経内科クリニック・渡邊 耕介院長だ。医療の本質を見失わず、ビジネス優先の風潮に疑問を投げかけながら、診察からリハビリ、訪問診療までを一貫して担える体制を築いた。その背景には、「誰かの力になりたい」という揺るがぬ思いがある。

01

水平ではなく立体的な拡張で一貫した体制を

長く続く医師の家系に生まれた渡邊院長は、一度社会人としての経験を積んだ後、金沢医科大学に編入し、医師の道へ進んだ。脳神経内科を専門とし、東日本大震災後には「被災地の力になりたい」との思いから宮城県石巻市に移住。その後、さらなる専門性を求めて横浜の病院で研鑽を積み、医療により深く向き合うため、2019年4月に「のげ内科・脳神経内科クリニック」を開院した。開業当初から一貫していたのは、「医療をビジネス化しない」という強い意志だ。

渡邊院長は、「医療とビジネスは、根本的に相容れないのではないかという思いを抱いていました。極端な話、医療というのは儲けようと思えばいくらでも儲けられる。ただ、だからこそ節度を持ち、医療資源を浪費しない姿勢が内科医としての基本ではないかと考えています」と語る。

近年では、ビジネスパーソンが医療業界に参入するケースが増加して、見た目の良い駅近のクリニックで、初診の患者に対して即座に診断書を発行し、町医者のようにうるさいことを言わずに、患者の希望通りの処方を行うようなスタイルをとっていることもある。

その状況に、渡邊院長は「確かに患者は集まるかもしれませんが、それは本当に医療と呼べるのか」と問いかける。さらに、医師自身が同じようなスタイルのクリニックを複数展開する傾向についても、「医療法人化して、分院を次々と展開するケースがありますが、私は基本的に、自分が診た患者は最後まで自分の手で責任を持ちたいと考えています。例えば、非常勤の医師が自分の知らぬところで自分と異なる方針の処方をしてしまった場合、それが信頼関係の崩壊につながる可能性もあるのではないでしょうか」と警鐘を鳴らす。

こうした考えの下、渡邊院長はクリニックの拡張に際し、「横の拡張」ではなく「立体的な拡張」を選択した。まずは1フロア下にCT室を設置し、診断の精度を格段に高めることができた。さらにその下のフロアにはリハビリ室を新設。元々の訪問診療や看取りに加え、診察・診断・治療・リハビリと、疾患のすべてのステージを一貫して医師が担える体制を構築した。「クリニックにリハビリ機能を持たせたことで、患者さんにとっての利益が確実に広がったと実感しています」と胸を張る。

02

誰かの役に立ちたい、という思いが医療の本質

同じ機能を持つ分院を増やすのではなく、一人一人の患者とより深く関わる——。その目標を実現する中で、特に大きな成果を挙げているのが、渡邊院長の専門であるパーキンソン病患者への対応だ。

「パーキンソン病は、薬による治療と同時に、適切なリハビリを併用することで相乗効果が生まれます。場合によっては薬を減らせるほど、リハビリの効果が出るケースもある。ただ、それが神経疾患に特化した内容ではいと、期待通りの効果が得られにくかったという課題がありました。当院のリハビリ室では、パーキンソン病に有効であるという確かなエビデンスに基づいたものを実施しています」と明かす。特に集団で行うリハビリが特徴だといい、「診断後、深く落ち込む方がほとんどですが、実は意外と多くの人が同じ病気と向き合っています。だからこそ、皆で集まり、一緒にリハビリをする場があることは非常に大きな意味を持つ。仲間と励まし合いながら続けることで、身体的にも精神的にも良い効果があるでしょう」と実感している。

こうした立体的な広がりを他の医療機関でも取り入れてほしいという思いはあるものの、実現には課題も多いという。「当院の場合、たまたま上下のフロアが空いていたことで拡張が可能でしたが、例えば離れた場所にリハビリ室を設けても、診療と機能的に結びつかないという問題が生じてしまう。さらに機能を拡張しても、必ずしも収支が黒字になるとは限らないという点も、大きなハードルだと感じています」と述懐する。

脳神経内科の分野では、アルツハイマー型認知症に対する抗体療法など、新たな治療法の開発が進んでいる。渡邊院長は、今後パーキンソン病においても同様のブレークスルーが訪れることに期待を寄せる。「100人に1人が罹患すると言われるほど、パーキンソン病は身近な病気です。だからこそ、発症しても軽度な状態で生活できるよう、まずは今行っているような投薬とリハビリを一体で行える施設を増やしていきたい。そして、いずれはこの病気がハンデキャップにならない時代が来ることを願っています」と語る。 

将来的には最期まで患者に寄り添える医療施設の設立も視野に入れている。「東日本大震災後、いてもたってもいられなくて石巻に行ったわけですが、その何か役に立ちたい。泣いている人が笑ってくれたらうれしい、というのが自分の医療の本質なのかなと感じています。だからこそ、自分がずっと長く診ていた大切な患者さんを可能であれば、最後まで看取りたい。そういう施設ができれば最高だなと思っています」と語る渡邊院長の言葉には、これからも変わらぬ情熱で医療に向き合い続ける決意が宿っていた。

のげ内科・脳神経内科クリニック院長

渡邊 耕介

1974年、神奈川県横浜市出身。4年間の社会人生活のあと、金沢医科大学に編入。卒業後は横浜の総合病院の脳神経内科専門で研鑽を積み、東日本大震災後は宮城県石巻市にて3年間、神経変性疾患を多く学ぶ。2019年4月にのげ内科・脳神経内科クリニックを開業。

https://www.noge-neurology.com