農家の思いをつなぐ
新たな青果卸売業に
株式会社西太
父が一代で築いた青果卸売業を継ぎ、卓越した経営手腕で業績を伸ばす「西太」の岡本光生代表取締役は、2018年に築地から豊洲へと卸売市場が移転し、生まれ変わった市場を、時代のニーズにあわせてさらに盛り上げたいと意気込む。自らを「仲卸であって、仲卸でない」と語る岡本代表に、市場の未来を聞いた。
単身の京都修行で人脈培う
父が54年前に始めた青果卸売業を受け継いだ岡本代表は、荷受会社から仕入れて買出人に売るという従来の卸売りから、産地開発から農家と直接契約するという新たなスタイルを確立。さらに新潟県や愛媛県など行政とパートナーシップを締結したり、農家に農学博士を派遣して土づくりを指導して商品作りをサポートするなど幅広い取り組みに挑戦し、自ら「仲卸であって、仲卸でない」と称する。
その原点は大学卒業後、修行のために単身飛び込んだ京都市場で培った人脈だという。
「父から『商売なんて覚えなくてもいい。人脈を作れ』と言われました」と振り返る。築地に戻ってきたとき、「新人だったこともあり、荷受から商品を買えなかった」という岡本代表は、京都時代の仲間から京野菜を仕入れた。それが、一つ目の転機になった。「運送業の先輩がいたので、荷台の片隅に京野菜を入れさせてもらい、全国に運んでもらったんです。それが広域流通と産直を始めるきっかけになりました」という。
そこから、市場の店舗だけでなく、百貨店やスーパー、老舗料亭など全国の取引先へ産地直送の新鮮な野菜を広げていった。「さまざまな農家と向き合ってきましたが、どれだけ真剣にやっているか、というのは畑を見れば分かります。丹精込めて作っている農家は土からしっかりと作っている。そういった生産者の思いを消費者につなげたい」と広域に流通できるローカルな物流路線を構築し、同社の強みになった。
人と人とのつながりを大事にする岡本代表は、生産者はもちろん、「農家と話すとき、最初に必ず『これから話すことで、自分のことを好きか、嫌いか、はっきりすると思う。だけど、話すことは全部本音だから』と伝えるようにしています。視察に来ているならほめるだけでいいかもしれないけど、自分は買い付けに来ているのでストレートに話すと、最初は『なんだ、こいつ?』と思われることも多い。でも、何度も足を運ぶうちに、『意外と変なやつじゃないぞ』に変わる。生産者だけでなく、仕入れに来るバイヤーやレストランのシェフに対しても同じように、一つずつ関係を作ってきた」と語る。
鮮度のいい、おいしいものが
手に入る市場を伝えたい
コロナ禍で健康志向が高まり、“食”のあり方にも変化があったが、岡本代表は「間違いなく、今は“食”への考え方がいろいろと入り乱れている時代だと思います」と指摘する。「最終的には、いかに鮮度のよいものを食せるか、という部分に行きつくのではないかと感じています。日本は高齢社会で、便利なものを求めています。カット野菜などの時短野菜がもてはやされ、冷凍技術の発展によってフレッシュに近い状態で食べられるものも増えてきました。そんな中で、野菜は生きているものですから、目利きのポイントはもちろん、鮮度がいいうちに食べられる方法を伝えることが、自分ができることだと考えています」という。
岡本代表は将来、一般人が市場で購入できる仕組みを作りたいという。「スーパーより安くはありませんが、市場なら鮮度のいいものが手に入る。生きている野菜、元気なものを食べた方がやっぱりおいしい。衣食住の中で、食だけがため込むことができないので、最終的に『本当においしいものはどこで手に入るんだろう?』と思うようになるはずです。市場は、そういう意味で今後注目される場所になるのではないか」と話す。
世襲の多い仲卸業だが、岡本代表は「M&Aを含めて、さまざまな可能性を試しながら市場とともに進化し発展していきたい」と意気込む。開かれた市場を目指す岡本代表の挑戦は続く。
株式会社西太代表取締役
岡本光生
1962年、東京都出身。1983年、高千穂大学卒業後、京都の市場で修業を積み、父が一代で築き上げた青果仲卸業を2代目として継ぎ、2002年、株式会社西太を設立。市場外流通法人を立ち上げるなど精力的に規模を拡大している。
http://www.nishita.jp/