【大学特集】
未来のライフ・イノベーションの先駆者に
新潟大学
新潟大学では「未来のライフ・イノベーションのフロントランナーとなる」を10年間の目標としている。牛木辰男学長は「人類を幸福にするためのイノベーションを掲げ、10年後も新潟大学が輝く大学にしたい」と意気込む。
文理を超えて学べる教育スタイル
新潟大学では、全学的に「全学分野横断創生プログラム(NICEプログラム)」という特色あるカリキュラムを推進しています。これは、総合大学の豊富な教育資源を生かし、学生一人一人が学びをデザインする、オーダーメイド型の教育です。
例えば、経済学部に入学すると、自ずとその学部が用意する授業科目を履修することになりますが、そこで学生が「将来の経済学にAIが必要になってくる」と感じた場合は、理系のAIなどの授業科目の履修も可能とする柔軟なカリキュラムです。このように、文理の垣根を越えて、さまざまな分野を学ぶことができます。外国ではそのような教育スタイルが多くなってきていますが、日本ではまだ本格的に取り組んでいる大学はあまりなく、新潟大学の大きな特徴と言えると思います。
また、2017年に新設した「創生学部」は、文系と理系どちらの分野も学習できる文理融合の学部です。創生学部の教育の特色は、入学してすぐに企業でのインターンシップへの参加や、企業見学を実施することです。それは、自分自身のやりたいことを見つけるためのきっかけづくりとなり、企業見学後に、どのような勉強をしたいのかを見つめ直して、領域を横断したさまざまなカリキュラムの中から自分で選択します。カリキュラムの中には対話型学習、能動的な学習が盛り込まれているので、アウトプット能力にたけた学生が育っていると感じています。
日本酒や米など地域に根差した研究も
新潟大学は、「ブレインバンク」という世界に冠たるヒト脳標本リソースを持っており、脳研究をはじめとして多様な分野での研究を世界に発信しています。一方で、新潟という地域に根差した研究も積極的に行っています。例えば、新潟が日本酒の銘醸地であることを生かして、「日本酒学センター」という新しい組織を作り、県や酒造組合と連携するとともに、フランスのボルドー大学との共同学位を進めています。
また地方の特色を生かした研究の取り組みの一つとして、新種のコシヒカリに関しての実証実験もあります。これは、農学部の三ツ井敏明教授が、オリジナルのコシヒカリの株を育て続けながら、20年程かけて、暑さに強そうな品種を見出したものです。
約4年前に、暑さに強いコシヒカリとして品種登録ができるところまで実現しました。最初の実証実験を刈羽村で実施し、そこを皮切りに県内のいくつかの地域にまで広げて、その後ほぼ全県で実施しました。商標登録もして「新大(しんだい)コシヒカリ」という名前が付けられています。良く知られている魚沼産のコシヒカリは、いもち病を防ぐために遺伝子改変をしたBLと呼ばれる品種のコシヒカリですが、新大コシヒカリは、福井でできた最初のコシヒカリの品種から作られており、甘みとコシがあるのが特徴です。米の目視による品質検査では1等米が最高級ですが、昨年は暑さで1等米とならないコシヒカリが多かった中、新大コシヒカリはかなり良い評価となりました。
学長に就任して、「新潟大学将来ビジョン2030」という、10年後の大学のあるべき姿を描いたビジョンを3年前に作りましたが、策定に当たっては、企業や自治体、学生、教職員などさまざまなステークホルダーの意見をくみ取っています。
この10年間の目標として「未来のライフ・イノベーションのフロントランナーとなる」という目標も掲げました。一般に、「ライフ・イノベーション」という言葉を聞くと、医療、福祉、健康の意味合いで使用されるように思われるかもしれません。しかし、ここで言う「ライフ・イノベーション」は、それだけではなく、人生や生命などの意味も含まれています。人の生き方、考え方、あるいは人間が暮らしている地球や自然に対しての革新(イノベーション)を心に描き、「ライフ・イノベーション」を新たに定義しました。端的に表すと、「人類を幸福にするためのイノベーション」という意味です。このミッションを高く掲げ、10年後も新潟大学が輝く大学になれるように、学長として全力を尽くします。
新潟大学学長
牛木辰男
1957年生まれ。新潟県出身。新潟大学医学部医学科卒業後、新潟大学大学院医学研究科博士課程修了。岩手医科大学医学部助手、北海道大学医学部助教授、新潟大学医学部長を経て2020年2月に新潟大学学長に就任。
https://www.niigata-u.ac.jp/