価値観の違う人との
出会いが人生を変える

松山大学

中四国地方で最大規模の総合大学である松山大学。新井英夫学長は「大学4年間を通じて、自分と価値観の合わない人との出会いこそ、自分の可能性を広げるきっかけになる」と話す。

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地域の思いを受けた大学

現在、松山大学は学生数約5,600人、5学部6学科、大学院6研究科を擁する総合大学で、卒業生は約8万2,000人を数えます。卒業生は産業界、教育界、官公庁等、幅広い分野で活躍しており、同窓会である「温山会」の活動も非常に活発で、日本・海外に43支部があります。

開学に当たっては、四国4県の中で愛媛を学術文化教育の中枢県にしようという県内有識者の先進的な意欲により、当時の加藤恒忠・松山市長、元大阪高等商業学校長の加藤彰廉・北予中学校長、大阪で東洋の製革王と呼ばれた新田長次郎氏を動かして、日本で3番目となる私立高等商業学校として誕生しました。それ以来、松山経済専門学校、松山商科大学を経て、2023年に創立100周年を迎えることができました。少子化など高等教育機関を取り巻く環境が非常に厳しい中、100周年という節目を迎えることができたのは、思いをつないできた学生たち、地域の皆様のご理解とご協力のお陰だと思っています。

教室で学んだ学問的知識を、実践知へと昇華させる教育活動として、地元の酒造会社と連携して規格外の柑橘を利用したリキュールを開発したり、自治体と協力して、コロナ禍で売れ行きが芳しくない鯛の販促活動をインターネットなどを利用して行ったりするなど、さまざまな取り組みを行っています。それは、学生たちに実学教育を提供できる大変よい機会になっていると思います。松山大学は愛媛県出身者が6割以上を占めている地元密着型の大学ですが、このような地域社会との連携活動は「故郷の発展に貢献したい」と考えて入学してくる学生たちが目標を持って学びを継続するきっかけともなっています。

2025年4月に、6番目の学部となる情報学部(仮称・設置構想中)を設置する準備を進めています。現在、日本では慢性的に不足しているIT人材の需要が急激に高まっている状況にあります。愛媛県でも昨年2月に「あたらしい愛媛の未来を切り拓くDX実行プラン」が発表され、「2030年度までにDXを支えるデジタル人材を1万人輩出する」という目標を掲げ、さまざまな施策が講じられています。松山大学は、地域の想いを受けて誕生した大学なので、地域が情報系人材を求めているのであれば、その期待に応え、地域の発展に主体的役割を果たすことが責務であると考えています。

情報学部では、情報システムコースとメディアデザインコースを設置し、情報・デジタルの高度な知識と技術を生かして、社会が抱えるさまざまな課題を解決し、人々の笑顔につながる新たなイノベーションを生み出すことができる人材を育てていきたいと思います。

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学生たちの経験広げる後押しを

英語の高校教員になるために、大学の英文科に入りました。大学生活の前半は塾のアルバイトに熱中していて、教える楽しさを経験しました。そこで出会った仲間たちはとても刺激的で、今でも付き合いがあります。大学院に進むことも、その仲間たちがきっかけでした。専門性を高めて学生に指導できることに魅力を感じて決意しました。3年次生から英文学の学習を積み重ね、大学生活の後半は勉強のアクセルを踏みました。

作家の背景や意図の深堀りをしたいという好奇心で、授業やアルバイトの時間以外、電車でも家でも暇さえあれば文学作品を読んでいました。最も影響を受けたのは、19世紀前半に活躍した英国の女性作家シャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』という作品です。当時、中産階級の女性は家庭に入り、男性を支えて子供を育てて、家を切り盛りすることが、求められていました。ただ、どの時代にも自分で何かをしたいと考える女性はいるもので、どんな思いで生きて、どうやって能力を発揮しようとしていたのかが描かれ、女性視点の力強さなどが新鮮で、興味深く読んでいました。

自分の中の行動や経験だけでは限界があるので、その範囲を広げるために、人と人との出会いが必要だと思います。学生たちに「隣に座っている人が、もしかすると自分の人生を変える人かもしれない」ということをよく言っています。また、ゼミなどくだけた場では「自分と合う人だけと付き合っていては、広がりをみせないので、変わった人、自分の意見と異なる人とも付き合うといい」と伝えています。そうした人との出会いの中で、打ち込めることがまだ見つかってない人も、打ち込めるものが見つかるかもしれないと考えています。

どの時代も同じかもしれないですが、将来をなかなか見通せないと感じている学生が多いと感じています。だからこそ、学生たちにさまざまな経験をしてもらうための後押しをしていける大学でありたいと思っています。社会の在り方や大学の在り方も大きく変わっていきますが、学生たちが積極的に自分の可能性を広げていける環境を用意し続けたいと考えています。

松山大学学長

新井英夫

1977年生まれ。東京出身。専門分野は英文学。2008年から松山大学に勤務。2021年から松山大学理事長、学長に就任。

https://www.matsuyama-u.ac.jp/