ものづくり業界の
明日を切り拓く

株式会社丸菱製作所

株式会社丸菱製作所の加工受発注プラットフォーム「ASNARO(アスナロ)」は、町工場が持つ技術を出品できるフリマサイトだ。ASNAROを通して製造業界の変革に挑む代表取締役社長・戸松裕登氏に話を聞いた。

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町工場が主役のプラットフォーム

三菱電機の1次サプライヤーとして、エレベーター部品などの大型構造物を、板金から組立まで一貫して手がける同社。同社は2022年、ASNAROというプラットフォームをリリースした。ASNAROはサプライヤーである町工場・中小製造業が、溶接加工やレーザー加工、塗装といった技術を、フリマ形式で出品できる。日程や技術名、地域を検索すると、該当する企業の持つ技術、工程が検出されるという仕組み。出品者にも発注者にもなれることから、閑散期には技術を出品し、繁忙期には工程を発注するといった使い方が可能。登録料・出品料は無料。発注者は前払い制のため、出品者は与信管理が不要となっている。戸松氏は「どこの町工場も必死で経営をしています。だからこそ、できる限り登録のハードルを下げようと思い、登録料と出品料は無料にしました。取引金額の10%だけいただいている形です。また、最低限の安全性を確保するために、前払い制を採用しました」と説明する。

最大の特徴は、町工場が主役になれるプラットフォームである点だ。町工場や中小製造業の多くは、高い技術力や独自のノウハウを持っていても、それが口頭や職人の感覚のみで共有されているなどの理由から、外部に発信されていない傾向にある。そのため技術の水準ではなく、1時間○○○○円といった時間単価が、メーカー主導で設定されることが多い。「町工場の方と直接お話しすると、技術力について謙遜されることがよくあります。しかし、詳しく話を掘り下げてみたところ、実は国内でも指折りの優れた技術だった、といったパターンは珍しくありません。町工場自身も自分たちの技術の価値を認識しづらい環境があります。」と話す戸松氏。

その点においてASNAROは、町工場自体が出品者となり、自分たちの技術の価格を、自分たちで決められる。つまり、単なる受注の場ではなく、熟練工の技術や自社のノウハウの“見える化”が可能な構造となっているのだ。戸松氏は「ニッチな技術はこれまで、市場規模が小さく生産性が低いとされてきました。そんな技術を商品として売り出し、技術の価値を町工場側から発信することで、より付加価値の高い仕事の獲得につながると考えています」と語る。

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ものづくり王国・愛知から、全国へ、そして他業界へ

ものづくり技術の再評価につながっていることに加え、ASNAROは、中小製造業同士の横のつながりを生む場にもなっている。「製造業界では大手メーカーから1次サプライヤー、1次サプライヤーから2次サプライヤーといったように、商流が固定化しているのが一般的です。しかしこれでは自社の技術やノウハウが取引先以外に伝わりづらく、町工場は、突発的な少量ニーズや特殊な技術を求める企業と出会う機会がなかなかありませんでした」と説明する戸松氏。実際にASNAROを利用したことで、これまで取引のなかった業界の企業とつながり、自社の技術を活かして新たな製品を納品できた町工場の事例もあるという。

戸松氏自身が構想から立ち上げまでを手がけたASNAROは、2025年4月現在、愛知県を中心に、全国の約730社の企業が登録。そして2026年3月末までに1,000社の登録を目指す。戸松氏はASNAROの展望について、Facebookの浸透に例える。「Facebookはもともとハーバード大学の学生限定のサイトでした。これが他大学に広がり、全世界にも拡大した経緯があります。そういう意味で、当社がある愛知県は、日本のものづくりの中心地であり、国内の製造業においてハーバード大学並みのブランド力があると思っています。そんな場所でビジネスモデルを確立することで、全国の町工場・中小製造業にASNAROを広げていきたいです」と力強く語る。

また戸松氏は、ASNAROの仕組みは他業界にも活かせると考えている。「リソースの有効活用がうまくできていないという課題は、製造業に限らず、どの業界でも共通して見られます。展示会に出展した際『これ、農業でも使えるのでは?』といった反応を受けたこともあります。ただ、私自身のバックグラウンドは製造業であり、異なる分野にすぐに進出するのは現実的には難しいです。それでもまずは製造業の分野でリソースシェアリングを通じた成功事例を作ることができれば、他業界でも理解が広まり、結果としてフレームワークの共有や連携ができると思います」。製造業にとどまらない、他業界への貢献という、大いなる可能性を秘めたASNAROのこれからに期待したい。

株式会社丸菱製作所代表取締役社長

戸松裕登

大学卒業後、2010年に家業である株式会社丸菱製作所に入社。主要顧客への営業、自社製品の開発・設計などを経験。ものづくりのおもしろさを知ると同時に、製造業界の枠組みの継続性に疑問を感じ、2022年4月、加工受発注プラットフォーム「ASNARO(アスナロ)」を立ち上げる。2024年6月、3代目として代表取締役社長に就任

https://www.marubishi-co-ltd.com/