【大学特集】
トライする場を提供する大学に

神戸学院大学

神戸市内の大学の中で学生数が最も多い私立総合大学の神戸学院大学。地域に根差した教育、研究活動を進めている中村恵学長は「トライする場を提供する大学でありたい」と語る。

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総合大学の強みを生かす地域に根ざした教育

神戸学院大学は、57年前に栄養学部から始まった単科大学でした。初代学長が医学者ということもあり、栄養学部、薬学部、総合リハビリテーション学部と医療・健康系の学部を持ちながら、法学、経済、経営、現代社会、人文、心理、グローバル・コミュニケーション学部など社会・人文科学系を含めて10学部を有する大学になっています。神戸市内の大学の中では学生数が最も多い私立総合大学です。

開学当初からのマザーキャンパスは、明石市に近接する神戸市の西端にありますが、神戸の中心街の三宮に近いポートアイランドにもキャンパスを持つようになって、神戸市の大学としてプレゼンスを高めていけるようになったと思っています。

本学は、特に「地域に根差した教育、研究活動」をうたい、教育、社会貢献の両面で力を入れています。これは、学生だけではなく、教職員も、ボランティア活動や企業との連携など地域に根ざした活動に取り組み、カリキュラムの中にも盛り込んでいます。例えば、ゼミの活動として自治体や住民のインタビューを通じて、現地の課題の解決策を講じて、プレゼンテーションしています。また、兵庫県庁でも課題のヒアリングと解決策のプレゼンを行っています。1~2年時の共通教育では、約10社の企業から課題をもらって、解決のためにディベートを重ね、最終的にプレゼン報告会をして評価してもらうこともしています。

 総合リハビリテーション学部と薬学部は、介護施設や薬局、病院での実習に加え、高齢者が多く住む団地で、課題のヒアリングと解決策の提案をするゼミ活動をしています。こうした活動では常に「地域社会のために何ができるか」を考えながら取り組んでいます。

カリキュラム以外でも社会連携部という部署で、自治体や企業からの依頼を受けています。淡路市から「学生の知恵を借りたい」と依頼があり、高齢者の移動題への対応や人口減少対策としてにぎわいを創出する催し物を企画など、学生が自治体と連携して取り組んでいます。

総合大学の強みを生かし、複数の学部から学生が集まって、課題について答えを出し、市長へプレゼンをするような課外活動も行っています。学生の成長にとって非常に意義があり、学生からも「参加してとてもよかった」と言われることが多くこうした活動を広げていきたいと思っています。

こうした活動に参加している学生は満足度が高いのですが、知らない学生も多く、もったいないと感じています。各学部や課外活動団体の学生から活動内容を話してもらう学長主催昼食会という場があり、ある学生がフェアトレードのコーヒーの販売促進をやっていたのですが、同じようなことを同じ学部の学生がお互いを知らずにやっていて、互いに驚いたことがありました。「そんな活動であれば私もやってみたかった」という声が上がることもあるので、学生相互の連携がより強固になっていけるような支援をしていきたいと思っています。

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「計画的な偶然」を経験してほしい

プライベートの話をすると、小学3年生の時に父親が亡くなり、母子世帯だったこともあって、高校時代からマルクス主義に傾倒し、マルクスを勉強するために経済学部に進みました。当時は、全共闘運動が活発な時代で、学生運動が盛んな大学だったのでストが多く、2週間くらい授業がないことがよくありました。そうしたキャンパスの中で、学祭でルポライターに講演をしてもらったり、有名な三池炭鉱争議を学びに直接当該労組の組合員に話を聞きに行ったりしました。そうした背景もあり「労働」ということに興味があり、「労働」に関する実態と理論的なことを学びたいと思い、大学院へ進むことを決めました。

 私の研究者としてのスタンスと重なりますが、労働の現場を見ていると、AIやデジタルサイエンスの専門性が高くなっている一方で、専門性だけではなく、幅広い知識、知恵の取得も必要だと思っています。より幅の広い技量が必要とされるので、学部を超えた教育やいわゆる教養教育をもっと広げていくべきだと考えております。

 医療、健康系の学部の学生には、「多職種連携」がカリキュラムの中でも重要視されるようになってきています。薬剤師や看護師、介護士、栄養士などの専門職が独立していればよいという時代ではなく、が、互いの領域を理解しながら仕事をしていく必要が強まっています。そこで、薬学部、栄養学部、心理学部、総合リハビリテーション学部に神戸市看護大学看護学部を加えた5学部合同で専門職連携プログラムを実施しています。他学部の学生と出会えて、刺激が多いと学生からも人気で、学部を超えた学びを深めていくことが、これからの時代、重要になっていくと考えています。

教員が魅力的な授業をすることが不可欠で大前提ではありますが、学長として伝えているのは、神戸学院大学は学生にさまざまな機会を提供し、学生にはそうした機会の中でさまざまな出会いをしてほしいということです。動かなければ出会いはないし、気づきもないと思います。就職活動で自己分析をしますが、自分の強みや、好きなことを頭の中だけで考えていても答えが出ないことが多い。何かアクションをして、人と出会う中で、良いことがあったり、悪いことがあったり、苦労したり、楽しかったり、成功や失敗を経験する中で、自己分析が進むのではないかと思っています。

これは、キャリア心理学のジャンルで有名な「計画的な偶然」という言葉と重なります。偶然のように思える出来事は、自分ではそれとは意識せずに選択を繰り返してきた結果なのであり、そうした出会いの中で今のキャリアがあるという研究結果から導き出された言葉です。何かにトライしていないと出会いはないので、そうした場を提供していく大学でありたいと考えていますし、学生たちにも大いにその場を活用してもらいたいと思っています。

神戸学院大学学長

中村 恵

1955年生まれ。79年京都大学経済学部卒業。84年名古屋大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得満期退学。その後、名古屋大学経済学部助手、神戸学院大学経済学部講師、助教授、教授、副学長、現代社会学部教授、学部長を経て、2022年から現職。

https://www.kobegakuin.ac.jp/