二百年企業に向けて
老舗印刷会社の挑戦
株式会社笠間製本印刷
株式会社笠間製本印刷は、明治時代から続く老舗の印刷会社だ。預金通帳や小切手といった有価証券の印刷を中心に、高い信頼を築き上げてきた。さらに環境優良工場として経済産業大臣賞を受賞するなどSDGsにも積極的に取り組んでいる。田上裕之代表に200年企業に向けた思いを聞いた。
有価証券印刷で培った信頼
同社は1875(明治8)年の創業時に、洋式帳簿の取り扱いを始めて以来、長年金融機関を取引先に預金通帳や小切手などの有価証券の印刷を手がけてきた。田上代表は「通帳を生産できる印刷会社は、当社を含めて6社ほどしかない。時代に合わせて、環境や使う人に適したものを提案して、シェアを広げていったことが功を奏しました。大手にはできない小回りと価格帯が強みです」と語る。
同社のモットーは「間違いなく確実な製品を届けること」だ。長期にわたって金融機関と取引を続けられる信頼性はそこにあると自負している。田上代表は「ミスがないのはもちろんですが、金融機関は納品が1冊多くてもダメ。納入数ぴったりが基本です。間違いが絶対に許されない取引先ですから、何重にもチェックすることは当たり前になっています」と明かす。
歴史と伝統を守りつつ、2008年ごろからはクリアファイル印刷という新たな分野にも挑戦し、高い評価を得ている。田上代表は「先代から、いずれ通帳はなくなるだろうといわれてきました。現に今はペーパーレスの時代。当社はそこが主力だったので、主力に変わるものを見つけるのは大変でしたが、たまたま当社に特殊な印刷機があったことに商機を見いだしました」と話す。当時の取引先は金融機関のみだったので、インターネットでの通販に挑戦した。競合が少なかったこともあるが、オリジナルで小ロットでオーダーできることが大きな強みになった。今では、有価証券印刷と両輪となる事業として同社を支えている。
SDGsを意識、環境や事業承継に注力
創業140年目を迎えた2015年には、印刷産業環境優良工場表彰制度経済産業大臣賞を受賞した。先代のころから環境問題に着目し、エコ通帳などでISO認証を取っていた同社だが、そういったエコ活動が本来の事業で生きていないと思っていたところで、印刷業界でも環境に対応する環境優良工場の表彰制度が始まった。「最初に挑戦したときは、話にもならない状態でした。その後、知人の会社が受賞したタイミングでリサーチしたのをきっかけに、社内でチームを作って取り組みましたが、最初の数年は受賞に届かず、これがダメだったらあきらめようと話していた年に受賞。社員の気持ちが報われました」と社員一丸となった結果の受賞を誇る。評価された点は「産業廃棄物は燃やすことが多いのですが、当社から出るごみは99.8%をリサイクルしています。紙だけでも3種類、全部で20種類くらいに分別するなど、徹底して取り組みました。加えて、エコ通帳などの商品もより環境を意識したものに変更したことも大きかった」と説明する。
デジタル化が進む中で、印刷業界も過渡期を迎えている。「自社に設備がなくても、受注して他社に生産をお願いする印刷会社もあるし、インターネット通販に強い会社もある。地方で特徴がない印刷会社は大変になってくるだろう。そこで、いかに生き残れるのかが重要になってくる」とし、今後も自社制作にこだわって、高い品質を担保していきたいという。
さらに、後継者不足にも目を向け、2021年12月に東京と札幌の会社をM&Aして、グループ会社に迎え入れた。田上代表は「1社は、弊社の事業にはないトナーやインクの販売も行っており、もう1社は競合先でしたが、一緒になることでプラスになると考えた。先が読めない時代ですが、守りに入るのではなく積極的に挑戦を続けていきたい」と意気込む。
代表就任以降、歴史と伝統を受け継ぎながら、先代からの「代が変わったら、自分が初代だと思ってやれ」という言葉を胸に、新たな道を築いてきた。「今後は変化にどう対応するかが重要だと思う。無理に大きくなるとひずみが出るので、伝統を踏襲しつつ、ゆっくりと成長していきたい。ただ、日々の仕事では当社ならではの規模感とスピード感を大事にしていきたい」と展望する。
株式会社笠間製本印刷代表取締役社長
田上裕之
1977年、石川県出身。工作機械メーカーや広告代理店勤務を経て、2004年に明治8年(1875年)創業の笠間製本印刷に入社。2010年7月に代表取締役に就任。
https://www.kasama-jp.com/