観光とVRで届ける
楽しさと喜び

株式会社楽喜

山口県美祢市で約80年、観光土産業を展開する株式会社楽喜。長い歴史を誇りながらも、現状に甘んじることなく、常に新しい挑戦を続ける吉田龍司代表取締役社長に、その原動力を聞いた。

01

コロナ禍を経てたどり着いたVR旅行サービス

同社は1947年の創業以来、観光土産品の企画・開発・卸販売を主軸としてきた歴史ある企業だ。山口県を拠点に広範な販売網を持ち、地域の観光産業に長年貢献してきた。

近年は、VR(仮想現実)による疑似旅行体験サービス「HAPPY HOLIDAY」をリリース。観光地の景色や設備を360度全方位から見渡せる「360度動画」をはじめとした約1500本の動画コンテンツをサブスクリプション形式で提供している。地元山口県の岩国城から英国の大英博物館まで、国内外の名所を紹介しており、自宅など好きな場所にいながら、リアルな没入感の中で旅行気分を味わえるのが特長だ。一人での利用はもちろん、複数人で一つの動画を視聴できるので、離れた場所にいる家族や友人とも旅行体験を共有できる。

同社が新たな領域に挑戦するきっかけとなったのは、新型コロナウイルス感染症の拡大による売上低迷の経験だった。吉田氏は「外出自粛の呼びかけや観光施設の休業などが影響し、2020年4月の売上は前年同月比で約90%減少しました。観光土産業の外部リスクに対する脆弱性を痛感し、経営の方向性を見直すことを決めました」と振り返る。

観光土産業という地域の観光資源の活用の延長線上として、旅行サービスの展開に踏み切った。吉田氏がVRに着目したのは、世界中の人々に旅行体験を提供したいという思いからだったという。「ある調査によると、世界人口約80億人のうち、旅行経験がある人は17億人しかいないそうです。残りの約60億人は旅行をしたことがないということです。各国の規制や個人の経済的な問題など、さまざまな制約があることで、特に海外旅行が難しい人は多いでしょう。そういった方々にも旅行を楽しんでいただきたいと考え、こうした制約のないバーチャルの世界での旅行を実現しようと思い立ちました」と語る。

02

介護業界でのVR活用から、コンテンツ型土産まで

VR旅行サービスで培ったノウハウを生かし、介護業界でのサービス展開も視野に入れている。具体的には、介護施設向けの新たなレクリエーションとして、高齢者が安全に楽しめるVRや映像コンテンツの導入を進めている。コンテンツは、山口県の各名所を中心に構成しており、入居者が映像を視聴することで散歩や観光を体験できる仕組みとなっている。こうしたサービスの導入により、介護職員の負担軽減や施設の人手不足対策に貢献したい考えだ。吉田氏は「山口県内の介護事業者数は非常に多く、過去にリストアップした際には1万件を超えていました。まずは地元から導入を進め、ゆくゆくは全国に展開していきたいと思っています」と話す。

VR事業に注力する同社だが、そこに軸足を移すわけではない。主力事業である観光土産業の強化・拡充として、2025年5月、新商品「YAMAGUCHI-BEN BOX(山口弁ボックス)」の販売を開始した。YAMAGUCHI-BEN BOXは、新しいお土産の形をコンセプトにした“コンテンツ型土産”である。ユーモラスなイラストと山口弁がプリントされた卵せんべいで、一見するとご当地の焼き菓子だ。しかし、せんべい1枚1枚にQRコードが印刷されており、スマートフォンで読み込むことで、その山口弁の意味や使用例を紹介する特設ウェブサイトにアクセスできる。単に食べるだけでなく、「方言を学ぶ楽しみ」も届ける、これまでにないタイプの土産品となっている。今後はQRコードの遷移先に、山口県の観光地を紹介した360度動画を設定し、観光体験の提供も検討している。

コロナ禍を乗り越えてもなお、新たな挑戦を続ける吉田氏。その根底には、社名の「楽喜」に込められているように、たくさんの人を楽しませたい、喜ばせたいという思いがある。「楽しいという感情は、心の必須栄養素です。会社を大きくすることや、何かを世の中に残したいという考えはあまりありません。それよりも、商品を買ってくれた人を喜ばせたいという気持ちの方が強いです」と語る。

今後の展望を尋ねると「観光土産に関しては、最終兵器を用意しているんです」と笑みを浮かべる吉田氏。今後も柔軟かつユニークな発想で、私たちを楽しませてくれるに違いない。

株式会社楽喜代表取締役社長

吉田 龍司

1975年、広島大学理学部物理学科を卒業後、日本エヌ・シー・アール株式会社に入社。76年に吉田商事株式会社(現:株式会社楽喜)入社。91年に同社代表取締役社長に就任し、現在に至る。

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