製造業における
DX化のすすめ
三共電機株式会社
産業機械用の制御盤の設計制作とその部品の商社業務を軸に、多岐にわたる分野で電気設計のサポートを行う三共電機株式会社。三橋進代表取締役は、先代社長である父から経営を学びつつ、社内業務のDXを進め、残業時間の削減など大幅な効率化を達成した。その成功を他社にもノウハウとして提供し、中小企業、製造業のDXに挑んでいる。
DX化で業務を効率化し、大幅に残業時間を削減
三橋代表は、中小企業の製造業が日本のものづくりを支えていると考え、これらの企業の従業員の給与を上げ、より輝かしい存在にしたいという野望を持っていた。主軸事業が産業機械用の制御盤の設計制作とその部品の商社業務で、人の手で行うアナログな作業が多かった同社に2014年に入社して以降、社内業務のDX化に力を注いできた。三橋代表は「例えば、約2000種類ある部品の棚卸しでは、紙に書いてExcelに転記するといった手作業でした。それらの管理業務は利益が発生しないので、利益を最大限利益にするためには、何よりも効率化が必要でした」と振り返る。
そこで、懸案事項だった棚卸業務や発注業務をアプリ化、QRコードを活用した在庫管理システムを導入するなどDX化を推進した。「2018年に本格的にDX化を導入したところ、当時は30人程度の従業員でしたが、前年から年間1500時間の残業時間削減を達成。毎週水曜日の定時退社や有給休暇の取得も可能になりました」とその取り組みは従業員の働き方改革にもつながった。
しかも、棚卸業務や発注業務のアプリは代表自身が制作したもので、ローコードツール(プログラミングに 詳しくなくてもアプリを制作できるソフト)を活用し、自作のアプリを従業員に配布。使い勝手が悪いところなど、ユーザーである従業員からのリクエストでアップデートを繰り返し、使いやすいものに整えていったという。三橋代表は「今は有休を申請するアプリも含めて、業務のほとんどをアプリ化しています。面白いものだと、男子トイレの空室を確認するアプリもあります。トイレが1階にしかないので、2階から下りてきても使用中は待たなくてはいけないという声があった。そういった小さなことが積み重なってストレスや非効率化につながっていきます。細かいことも解決するにこしたことはない」と語る。
ノウハウを提供するなど中小企業のDX化をサポート
そういったDX化の取り組みが話題になり、同社には全国各地から中小企業が見学に来る。三橋代表は「見学者からは『自分でアプリなんてとんでもない』という声もありますが、若い人なら意外とスムーズにできる。従業員がストレスなく働けるためには、やはり経営者が変わっていかないといけない」と自身で生み出したDX化のノウハウをほぼ無償で提供しているのも大きな特徴だ。
そして、そのノウハウ提供はDX化のみならず、従業員教育のプログラムなどにも領域が広がっている。三橋代表は「三橋塾」と名付けられたセミナーを年に2回、各8回のセッションを行い、製造現場の研修と座学を組み合わせて実施。座学では、営業指南なども行っている。「今まで誰かに聞いていた現場のことも分かるようになりますし、逆に現場が営業のことが理解できる。社内外で現場と営業がコミュニケーションできるようになったという声も多い」と話す。
だが、デジタルネイティブではない世代の経営者の中には、いまだデジタルを毛嫌いする人もいるという。「そういった人には『臆するな、やれ』と伝えます。セミナーの中で、ハンズオンでやってみせると意外とできるかもしれないという人も少なくない。社長がそういう気持ちになれば、あとは会社として走っていくだけなので、最初の一歩が肝心だと思います」と経験を語る。
中小企業製造業のDX化に注力する三橋代表の根底には、労働力不足と少子高齢化という日本の課題があり、今のうちに職人の技術をデジタル化やロボット化する必要があると強調する。「今ならギリギリ現役で活躍している職人たちが辞めてしまったら、日本のものづくりが本当に終わってしまう。だからこそ、我々のような若手経営者が率先してデジタル化を進めなくてはいけない。人がやらなくていいことはデジタルに任せる。その転換期に入っているように思います」と言い、同時に技術伝承に興味を持つ余暇を作れるよう、同社のようにDX化で残業時間を減らすことも重要だと力を込める。
また、AIを活用した技術伝承や業務効率化も積極的だ。設計や製造の際の注意点をAIに学習させ、AIが自動的にアドバイスを提供できるようなシステムの構築も目指している三橋代表は「労働人口が減少するなか、デジタル化は必要不可欠なことなので、ローカルの中小企業に若い世代が夢を持てるよう当社が見本となります。そのために、来年の夏には工場の増設も竣工し、さまざまな社会課題を解決できるプロ集団になっていきたい」と意気込む。
三共電機株式会社代表取締役
三橋 進
1984年、愛知県出身。2009年に森精機製作所(現 DMG森精機)に入社。工作機械のソフトウエアの開発に従事した後、2014年に三共電機株式会社に入社。制御盤の設計業務の傍ら、先代社長である父より経営を学び、2020年から現職
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