認知症や脱炭素を
デザインの力で解決
NPO法人issue+design
「社会の課題に、市民の創造力を。」をテーマに、さまざまな社会課題をデザインの力で解決するための研究、実践を手がけるNPO法人「issue+design(イシュープラスデザイン)」。「認知症」と「脱炭素」が自身の2大テーマだという筧裕介代表に、その取り組みについて話を聞いた。
認知症でも暮らしやすい社会を
これまでさまざまな社会課題の解決に挑んできたissue+designの筧代表が、認知症に取り組み始めたのは2018年。慶應義塾大教授らとともに“認知症とともによりよく生きる社会”を実現するプラットフォーム「認知症未来共創ハブ」という組織を立ち上げた。認知症の問題は、予防と介護の二つをテーマで語られることが多く、疑問を感じていたという筧代表は「『認知症の当事者が自分らしく幸せに生きていくことができるような社会』にしたいという考え方に感銘を受けた」と振り返る。
現在、筧代表は「認知症の当事者に、どうアプローチするか」をテーマに、口腔ケアのアイテムや公共交通機関のサービスなど、企業とコラボレートした商品や事業の開発を積極的に行っている。また、2021年9月には「認知症世界の歩き方:認知症の人の頭の中をのぞいてみたら」(ライツ社)を出版。認知症の当事者100人にインタビューし、15万部を超えるヒットとなっている。
「認知症の方が生きている世界、見えている景色は周りには分からない。周囲からは異常な行動に見えても、本人には極めて論理的で明確な理由があるのです。例えば、深夜に家を出て街を歩き回る『徘徊(はいかい)』は、本人が過去に仕事に行っていた時代の記憶がよみがえり、通勤しようとして家を出ている。過去にタイムスリップしているような脳のトラブルだったりします。それを理解すれば、周りもその行為を受け入れられるし、解決策を見出せる。本人が生きている世界、見えている景色を伝えることで、認知症に対する誤解や偏見をなくし、暮らしやすい社会を作ろうというのがプロジェクトの目的です」と説く。
デザインの美しさや楽しさでムーブメントを
筧代表がもう一つ重点を置いているのが「脱炭素」だ。2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」の政府目標に向けて、脱炭素推進人材を地域で育てるプロジェクト「脱炭素まちづくりカレッジ」を2022年6月にスタートさせた。脱炭素まちづくりに必要な市民生活やまちづくりの対策を学ぶ講義と検定のプログラムと、まちづくりのを疑似体験するロールプレイングゲーム型の未来体験プログラム、自分たちが排出する炭素量の見える化と具体的なアクションプランのデザインなどを自治体や企業と取り組むものだ。
前身となるプロジェクトとして、SDGs(持続可能な開発目標)をテーマに地方創生を学ぶ「SDGs de 地方創生」で開発したカードゲームは、2019年度のにグッドデザイン賞特別賞を受賞しており、筧代表は「デザインの美しさや楽しさで人の共感を呼び、社会にムーブメントを起こせると思う。『SDGs de 地方創生』でも全国で1000人以上の方がファシリテーターとなってくれましたが、『脱炭素まちづくり』でも地域の人たちがファシリテーターとなって、さらに多くの人にその活動を広げてもらいたい」と力を込める。
筧代表は、コロナ禍前に長期出張したスペインで日本の未来を見たという。「スペインはグローバル経済の中では負け組ですが、世界一の食の街があるなど、豊かな文化と自然環境に恵まれている。経済大国として世界を制覇した次の段階は、経済的な豊かさの先にある多様な豊かさを享受できる社会ではないかと思います」と語る。「課題があふれているからこそチャレンジしがいがある面白い時代。解決の道筋が見えていないような課題にチャレンジし続けていきたい」という筧代表は、これからも課題解決をデザインし続けていく。
NPO法人issue+design代表、慶應義塾大学大学院 特任教授、東京医科歯科大学 客員教授
筧裕介
1975年生まれ。大手広告代理店勤務を経て、2008年にソーシャルデザインプロジェクト issue+designを設立。以降、社会課題解決のためのデザイン領域の研究、実践に取り組む。著書に「持続可能な地域のつくり方」(英治出版)、「認知症世界の歩き方」(ライツ社)など。
https://issueplusdesign.jp/