情報システムで
行政スタートアップ

平井卓也

2021年9月に開庁するデジタル庁。従来機動的とは言い難かった行政の情報システムを統括し、刷新する役割に期待が集まる。政府のIT施策のキーパーソンである平井卓也デジタル改革担当大臣に、現状のシステムの課題と同庁設立の意義、組織の特徴、クラウド技術の活用により実現を目指す未来の行政運営のビジョンについて聞いた。

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デジタルシフトに引き金をひく

2020年9月16日に菅総理からIT担当相に指名され、規制改革の象徴、成長戦略の柱としてデジタル庁創設の準備をするよう指示を受けました。2021年5月に設置根拠となる関連法案を6本成立。9月1日に、法律に基づく庁としてスタートします。長官にあたる「デジタル監」ら、周りを固める民間の方々の人選も行っています。「ガバメント・アズ・ア・スタートアップ」を掲げ、スタートアップ企業のようなスピード感をもって、約1年という短期間でヒト・モノ・カネ・場所・法律と、全く新しい組織を作るために必要な調整を進めてきました。

デジタル庁の創設は、行政の情報システム全体の一大構造改革です。具体的には、行政システムの予算の一括計上を行い、統括・監理、勧告までを行う大きな権限があります。それにより、これまでバラバラであった行政システムを、全国の自治体もスコープに入れ、トータルデザインすることが可能となります

機構にも特徴があり、デジタル庁は職員約500人のうち、役人が300、民間から200人の陣容です。プロジェクトベースで各省庁のシステムを担当し、各プロジェクトの責任者は、民間の第一線の方々が就任します。従来の役所のヒエラルキーを壊すフラットな組織をもっているのです。

政府が情報システムの構築を行う際には、クラウドの活用を第一に考える『クラウド・バイ・デフォルト』原則を掲げています。デジタル庁がガバメント・クラウドを統括し、各省庁が所管する諸制度のシステムを迅速に、最適なコストで立ち上げることが可能となります。

これまで20年にわたり、国は年間約8000億、地方自治体は約5000億を情報システムに支出してきました。しかし国でいうと5000億以上、6割がシステムの保守管理と法律改正による改修に使われていました。オンプレミス環境の「つながらないデジタル」は高コストで、変化に対応できず、IT本来の能力を発揮できない。高齢化と社会保障の伸びに立ち向かうには、従来のアーキテクチャの改善ではなく、根本的な改革が必要です。

02

「ガバメント・アズ・ア・スタートアップ」

――コロナ禍の給付など、緊急事態時の支援策の整備も課題です。

コロナ禍においては、一人10万円の定額給付金を実施しましたが、その予算のうち、給付金額以外のトランザクションコストに1500億円以上もかかっています。また、一律に同額の給付金を配ることが政策として正しいのか、という議論もあります。6月からは、マイナンバーを利用し、コロナ禍で経済的に困窮する子育て世帯の方々など、本当に必要なところに申請なしのプッシュ型で給付金が振り込まれる制度がはじまりましたが、そのようなエンド・トゥ・エンドの行政サービスを可能とするインフラを整え、次の世代の政策選択の幅を広げていきたいと考えています。

日本は、経済規模は世界3位ながら、デジタル競争力のランキングは27位。労働参加率が高いにも関わらず、労働生産性が低い。創業100年以上の歴史を持つ優れた企業がたくさんある半面、ユニコーン企業が少ない。長く続けることは得意なのですが、デジタル化に代表されるように、時代に合わせた変化を決断できない現状があります。日本が長年培ってきた価値と、新しい技術が融合すれば、ほかの国にない巨大なパワーを発揮することができるでしょう。政府がまず率先して「ガバメント・アズ・ア・スタートアップ」の変革を行うことにより、社会全体のデジタルシフトに引き金を引くことができるのではないかと考えています。

※Qualitas Vol.15より転載

平井卓也デジタル改革担当大臣

平井卓也

1958年生まれ。香川県出身。自由民主党所属の衆議院議員(現在7期目)。上智大学外国語学部英語学科を卒業後、1980年に電通に入社。1987年より西日本放送の代表取締役社長も務めた。2000年、第42回総選挙で香川1区から初当選。内閣府特命担当大臣などを歴任し、2020年よりデジタル改革担当大臣に就任。