実現可能な遺言で
家族を守る支援を
北摂パートーナーズ行政書士事務所
適切な遺言書があれば、残された家族の負担は少なくなる。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将代表は、銀行員時代に培った経験を生かして、遺言の作成支援に取り組んでいる。
遺言は自分のためではなく家族のための準備
北摂パートーナーズ行政書士事務所は、自筆証書遺言や公正証書遺言を希望する人々に向け、遺言案の作成など相続人に寄り添った支援を展開している。近年は、子どもがいない夫婦から「自分たちの財産をどうすべきか」という相談が増加している。だが、遺言がなければ、相続手続きは容易に進まない。そうした子どもがいない夫婦の場合の多くは、夫が亡くなると妻が4分の3を相続し、残りの4分の1は夫の兄弟姉妹が承継するが、相続人全員の同意がなければ手続きは滞る。松尾代表は「親族間の関係が希薄だったり、居場所が分からなかったりするケースでは、相続が思うように進まないことが少なくありません。当事務所では、夫婦それぞれが全財産を配偶者に渡す内容の遺言を作成することをおすすめしています」と語る。
さらに同事務所が提案するのが「二段構えの遺言」である。夫から妻へ全財産を承継したとしても、妻が亡くなった時の処理が不明確であれば新たな争いの火種となる。松尾代表は「妻が亡くなったあとのことまで、二段構えの遺言を作っておくことで、後々のトラブルを避けることができる。そういった選択肢があることを知っているだけでも役に立ちます」と説明する。
特に、地方では山林や田畑といった評価額の低い不動産が課題となりやすい。相続登記に10万円ほどの費用がかかる場合もあり、放置すれば関係者が増えて、解決は一層困難になる。松尾代表が扱った案件では21人もの関係者がいるケースもあった。身内だけで解決するのが難しい場合は、専門家の手を借りるのが得策だ。だが、相続の発生件数は年間で156万件以上となり、すべてを専門家だけで対応するのは難しい。さらに、経済的な理由で依頼をためらう人も多いという。松尾代表は「できる範囲は自分で取り組み、時間や専門性が必要な場面では専門職に頼る。そのバランスが重要だと考えています」と語る。「インターネットが発達している現代では、多くの人が時間をかければ、自分で相続手続きを完結できる可能性がある」と考え、2025年から相続についてのセミナー開催にも注力している。
相続トラブルを防ぐ実現可能な遺言の作成
元々銀行員として遺言・相続業務に従事していた松尾代表は、大腸がんでの闘病を経てキャリアの現実に直面した。昇格の機会が限られ、50歳前後で閑職に追いやられる現実を前に、培ったスキルを社会に還元すべく独立を決意した。遺言・相続手続きに特化しての開業に、当初は「行政書士に相続は任せられない」「弁護士や税理士の分野だ」といった懐疑的な声もあった。それでも松尾代表は「すべての事案がもめているわけではないし、相続税申告を必要とするわけではありません。見落とされがちな領域こそ行政書士が担うべきマーケットだと考えています」と語る。実際にペットを飼う家庭や障害のある家族がいる家庭では、遺言の存在が生活を左右する。松尾代表は「ペットに過剰な資金を残さないよう調整したり、障害のあるお子さんのために特別な手だてを整えたりすることが不可欠です」と説明する。
同事務所が掲げる基本方針は「実現可能な遺言」を作ることだ。解釈の余地を残す曖昧な表現は、相続人同士の対立を招きかねない。松尾代表は「例えば『不動産を相続させる』『金融資産を相続させる』と記すと、火災保険契約はどちらに含まれるのかといった議論が起きることがあります。そこで争いを生まないためには、遺言の記載を明確にすることが欠かせません」と強調する。
こうした姿勢の背景には銀行員時代の経験がある。「長年の経験を通じて、執行時に生じる問題を予測できるようになりました。銀行であれば組織が支えてくれますが、今は個人事業主として責任をすべて背負う立場です。だからこそ一層慎重さを意識しています」と力を込める。
今後の展望として、地方での展開も視野に入れている。長崎出身の松尾代表は「地方では誰に相談すればよいのか分からないという課題が根強くあります。リアルな事務所を置くのは難しくても、オンラインを活用すれば解決できる」と意欲を示す。同事務所の理念は「遺言者の意思を尊重した健全な相続手続き全般の支援を通じ、健康で文化的な社会の実現」だ。さらに現在は「モノとココロの豊かさをともに」という上位概念を掲げ、業務を通じてその豊かさを分かち合える人を増やすことを目指している。松尾代表は「相続を単なる手続きで終わらせるのではなく、人々の暮らしを豊かにする営みへと昇華させたい」と未来を見据える。
北摂パートーナーズ行政書士事務所代表
松尾武将
1971年、長崎県諫早市出身。1993年4月に大手信託銀行に入社。2020年に退社し、同年9月に行政書士として登録。22年に北摂パートナーズ行政書士事務所を開業。遺言・相続手続きに特化し、相談件数は3000件以上。自身も銀行員時代から遺言・相続業務に従事し、20年以上の実務経験を持つ。
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