【大学特集】
「学の実化」を実現する教育を

関西大学

大阪府内に八つのキャンパスを持つ関西大学。前田裕学長は大学の理念である「学の実化」を実現するための教育体制を重要視している。前田学長「変化する勇気と力を持ってほしい」と語る。

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データサイエンス教育を強化

関西大学が、これまでも、また、これからも最も大事にしていることは、大学の理念である「学の実化」です。「学の実化」とは、本学が大学へ昇格した1922年に、当時の総理事であった山岡順太郎が提唱したものです。大学は教育研究に当たり実社会の実情を知り、その経験を取り入れ、社会は大学の学術研究の成果を取り入れる。このように「学理と実際との調和」を取りなさいという考え方です。

例えば、学生がインターンシップに参加した際に、自分には何が不足しているのか、または社会にとって何が不足しているのか、という視点を大学に持ち帰ることによって、今まで受け身で勉強をしていたところから、自分はこれから何を学ばなければならないのかを認識し積極的に学ぶようになります。これが学生にとっての「学の実化」です。

この理念を大切にする前提で、現在、大学全体で「データサイエンス」の教育を強化しています。自然科学の分野だけではなく、人文科学や社会科学の分野でも科学的なデータの取り扱いが重要になっています。さまざまな分野で現場からデータや数字を抽出し、そこから何が起こり、何が必要なのかを読み解く力が、社会人になってから重要です。また、日本の産業の中では、このような膨大なデータを価値創造につなげていくことができる人材が必要とされています。そのため、学部に関係なくデータサイエンスを学べるプログラムを構築し、多くの学生が受講しています。

私の研究テーマも大規模言語モデルの基礎になるような人工ニューラルネットワークの分野ですので、これからのデータサイエンスの重要性や、正しくデータサイエンスを用いることの大切さもよく分かるので、どの分野の学生にもデータサイエンスについては学んでほしいと思っています。

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変化する勇気を

私たちは教育機関ですので、次の世代に大切なことを伝えていかなければならないと思うことが二つあります。

 一つ目は、「変化をする大切さ」です。変化するには勇気が必要だと考えています。企業でも何か新しいことをやる時は、躊躇してしまうことがあると思いますが、「挑戦していこう」という気持ちを持つことが大切だと考えています。学生には、変化をするということの意義を学んでもらいたい。

 二つ目は「自己肯定感」の重要性です。日本の学生は他の国の学生と比べて自己肯定感が低いと言われています。日本の存在感が強かった時代が終わり、現在は円安に代表されるように日本の評価は厳しい時代になってきていると感じます。その中で自己肯定感を高く保つことは、いささか難しいのかもしれません。しかし、自分に自信を持ち自己肯定感を持つということは、仕事をしていく上でも、社会にとっても必要なことです。

企業には、挑戦する気持ちを育めるような環境が求められていると感じます。新入社員が入社してすぐに新しいことに挑戦することは難しいですが、今までになかった意見を出したとき、先輩や上司がもっと新しいことに挑戦したらいいと、背中を押してもらえる環境が、挑戦する気持ちを育んでいくと考えています。どうか失敗を恐れず、そこから学ぶ姿勢を大切にしていってほしいですね。

関西大学学長

前田 裕

1956年生まれ。大阪府出身。工学博士。大阪府立大学大学院修了後、高校教員を経て関西大学工学部に着任。関西大学システム理工学部長、関西大学国際部長、副学長を経て、関西大学学長に就任。

https://www.kansai-u.ac.jp