歯科治療から変化
ホリスティック医療
医療法人社団光志会 奥原歯科医院
埼玉県所沢市小手指町にある医療法人社団光志会奥原歯科医院は、歯科治療のみならず、体全体をトータルにケアする「ホリスティック医療」に取り組んでいる。早くから訪問診療を始め、2016年にはリハビリ型デイサービス施設を開設。現在、障害者の自立サポートにも力を入れる奥原利樹理事長に話を聞いた
通院が難しい全ての患者を受け入れる
現役の歯科医師として患者に向き合いながら、高齢者向けの通所リハビリ型デイサービス、障害者の自立サポートなど社会貢献活動にも注力する奥原理事長は、大学病院での研修医時代がその原点だと振り返る。「障害者歯科治療室の立ち上げに参加したことが、非常に大きな経験になりました。当時、自閉症や知的障害の患者を診られる歯科は少なかったため、近隣県からも来院されていたのですが、家族の負担がとても大きいことを目の当たりにし、大きな病院のない地方でもそういった障害者を受け入れられるドクターがいれば、もっと皆が幸せになるのではないかと思いました」
約20年前から通院が難しい患者を対象にした訪問診療を始め、現在では、自宅を訪ねる居宅診療のほか、障害者や高齢者の施設や病院など、歯科医院に通院が難しい全ての患者を受け入れている。さらに、歯科治療の分野にとどまらず、体全体をトータルにケアするホリスティック医療にも取り組む。また、全ての職員が、障害を持つ方の特性を理解し、その場にあった方法で適切なサポートができる「サービス介助士」の資格を取得しているのも特徴だ。
奥原理事長は「高齢者や障害を持つ方が来院した際、どういったことに気をつけるべきか、自然とふるまうことができるし、困っている人を助けるのは当たり前です。医院内だけでなく、社会生活を送る上で非常に大事なことだと思います。」と語る。
福祉や社会貢献に注力する企業を増やしたい
精神科への往診経験から、患者が退院後、職に就けずに生活保護を受けたり、病院に戻ってくるケースが多く、信じられないくらい低賃金で働いていることを知った奥原理事長は、就労継続支援サービスを手がける人物と知り合ったことをきっかけに、作業所で作られた食品や雑貨などを販売する福祉マーケットを開催するようになった。
「最初は当院の前のたった2台分の駐車場を使っていましたが、次第に近隣の方々の支援や作業所の横の繋がりもでき、規模が大きくなってきています」と笑顔を見せる。作業所の売り上げを確保するだけでなく、そこで働く人々のモチベーションアップにつながったことが一番の成果だったといい、「対面販売することで、今まで接点のなかった購入してくれる人たちとコミュニケーションがとれ、自分たちが作ったものがこんなふうに喜んでもらえるのだと実感できるし、外に出て福祉イベントに参加する機会にもなる。ただ収入を増やすだけでなく、働くやりがいもプラスされたように感じています」と語る。
現在は、就労継続支援の作業所に、オリジナルの歯ブラシケースの制作を依頼するなど、さまざまな方面からサポートしている奥原理事長は「作業所では昔から変わらないものを作っていることが多いので、もっと世の中が求めているものを考えて、変化していくべきだと思います。障害者が作っているから、ということで情で購入してもらうのではなく、本当に社会が欲しいと思ってもらえるものを作っていく必要がある」と提案する。
「誰一人取り残さない世界を目指す企業が、今後もっと増えていくように、企業の社会的責任(CSR)の概念が普及していけば、社会のニーズから企業へと矢印が変化していくはず。医療法人として少しでも社会の役に立てればという思いから始めたことですが、たった一軒の歯科医院でもこれくらいのことはできる。我々が突破口ではないですが、同じような思いが広がり、スパークする拠点になれればと思います」と話す。今後も歯科治療を軸に、福祉が必要な人々のサポートを続けていく。
医療法人社団光志会 奥原歯科医院理事長
奥原利樹
1963年、長野県出身。広島大学歯学部を卒業後、1996年、奥原歯科医院、2002年に医療法人社団光志会奥原歯科医院を設立。著書に「やっぱり、歯科医って素晴らしい!!」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。
https://koushikai17.or.jp/